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フィジカルAI導入における対応範囲・判定対象・安全対策の決め方

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目次
  1. 概要
  2. 導入範囲は使う場所を列挙して決める
  3. 対応範囲から必要な走行性能を決定する
  4. 判定対象は搭載センサーで決まる
  5. 処理を端末側に置くかを切り分ける
  6. 実行基盤はエッジ向け製品を利用する
  7. 冗長化と運用体制を一体で開発する
  8. 端末の保護とアクセス制御を用意する
  9. 期間と用途を限った提供から始める
  10. 資金と体制を確保して実証を続ける
  11. 結論

概要

現実世界で動くAI、いわゆるフィジカルAIを導入するとき、「どんなロボットを買うか」から考えたくなります。ただ、実際の事例を見ると、先に決まっているのは機材ではなくどこで使うかです。

アトラックラボは6本の脚を持つスパイダーロボを開発し、災害現場の捜索や調査、倒壊した建物内の状況確認、インフラ設備の点検での利用を想定しています アトラックラボのスパイダーロボ、災害捜索と設備点検。ロボトラックは、高速道路の幹線輸送から物流施設に接続する一般道、物流施設内までを一体的にカバーする国産レベル4自動運転システムの実装を目指しています ロボトラック、52億円で国産レベル4自動運転を実装へ。どちらも使う場所が先に定義されています。

そして使う場所が決まると、必要な機構が決まります。スパイダーロボはカメラによるAI画像認識に対応し、4本の脚で姿勢を保ちながら残る2本の脚で対象物に触れて、硬い・柔らかいといった物理的な性質を判定します 。判定できる内容は、搭載した機構と対応しています。

処理をどこで行うかも決める必要があります。企業がAIを導入する際には、どの処理を端末内で行い、どの処理をクラウドに任せるのかを切り分ける必要があるとされています Apple Intelligence等オンデバイス生成AIの要点

安全対策は、個別の機能としてではなくまとめて扱われています。ロボトラックは調達資金を、フィジカルAI技術、車両の冗長化、安全性評価および運用体制の一体的な開発に活用します 。

始め方についても参考になる形があります。AVerMediaはJetPack 7.2対応のBSPを、事前評価、検証、アプリケーション先行開発を目的としたベータ版として提供し、利用者からのフィードバックと社内テストに基づいて正式版へ向けた改良を継続するとしています AVerMediaのJetPack 7.2対応BSPベータ提供

フィジカルAIの導入は、対応範囲を決める、判定対象と機構を対応させる、処理場所を切り分ける、冗長化と運用体制を一体で作る、期間と用途を限って始める、という形で進められています。

導入範囲は使う場所を列挙して決める

最初に決めるのは、どこで使うかです。事例では、抽象的な目的ではなく具体的な場所が挙げられています。

  • アトラックラボは、災害現場の捜索や調査、倒壊した建物内の状況確認、インフラ設備の点検という利用場面を挙げています
  • ロボトラックは、高速道路の幹線輸送、物流施設に接続する一般道、物流施設内という区間を挙げてカバー範囲を定めています
  • デジタル庁は、生成AI利用環境「ガバメントAI 源内」の提供先を令和8年熊本地震の被災自治体や関係自治体、災害対策機関などに限り、災害対応に関係のない用途での利用は控えるよう求めています デジタル庁「源内」を被災自治体へ緊急提供

いずれも、使う場所や使う相手が言葉で特定されています。範囲が特定されていれば、その範囲で必要な性能も、範囲外で起きることも切り分けて考えられます。

導入範囲は、目的ではなく場所・区間・提供先として列挙します。

対応範囲から必要な走行性能を決定する

範囲が決まると、そこを移動できるかどうかという条件が具体的になります。

スパイダーロボの6本の脚はそれぞれ独立で制御でき、がれきなどの不整地も走行できます 。災害現場や倒壊した建物内を対象にするなら、平らな床を前提にはできません。6脚という構造は、その対象範囲に対応しています

アトラックラボのスパイダーロボ、災害捜索と設備点検AI活用事例の構造図駆動画像接触走行活用活用背景6本の脚背景搭載カメラ背景対象物への接触AI処理スパイダーロボ成果不整地の走行利用災害現場の捜索利用インフラ設備点検https://www.itmedia.co.jp/aiplus/article/2607/23/2000000217/
アトラックラボのスパイダーロボ、災害捜索と設備点検

ロボトラックは2026年5月に、神奈川県・厚木南ICから愛知県・豊田JCTまでの高速道路約260km全区間を、セーフティドライバーによる介入操作を一切行うことなく自動運転で走破しました 。長距離の幹線輸送を対象にするなら、その区間を実際に走れることが確認の対象になります。

対象範囲の性質が、そのまま検証すべき性能の内容になっています。

判定対象は搭載センサーで決まる

次に決めるのは、AIに何を判定させるかです。判定できる内容は、搭載した機構の範囲に収まります。

  • スパイダーロボはボディー部分にカメラを搭載し、AIによる画像認識に対応します
  • 4本の脚で姿勢を保ちながら残る2本の脚で対象物に触れることで、硬い・柔らかいといった物理的な性質も判定できます
  • ロボトラックは、モジュール型AIベースの技術と、E2E AIや世界モデル等を活用したフィジカルAI技術を開発しています

見た目を判定するにはカメラが要り、硬さや柔らかさを判定するには触れる機構が要ります。判定させたい内容を先に書き出しておくと、必要な機構が決まります。

判定してほしい内容を先に列挙し、それぞれに対応する機構があるかを確認します。

処理を端末側に置くかを切り分ける

現場で動くAIでは、処理をどこで行うかも決める必要があります。オンデバイス生成AIについて整理された内容が、そのまま判断材料になります。

  • 端末内の小型AIモデルが処理を行うため、通信環境に左右されにくく、応答も速くなります
  • 端末に搭載できるAIモデルは処理能力、メモリ、バッテリー、発熱の制約を受け、長文の高度な分析や大量データを使った複雑な判断には向かない場合があります
  • NPUはAIワークロードを効率的に実行するために設計されており、インターネット接続がなくてもバックグラウンドで持続的に即座に動作する必要がある機能に適しています Copilot+ PCのオンデバイスAIと企業セキュリティ

災害現場や走行中の車両のように通信が安定しない場所では、端末側で完結する処理の範囲が働き方を左右します。すべてを端末に載せる必要はなく、どの処理を端末内で行い、どの処理をクラウドに任せるのかを切り分けることが求められています 。

実行基盤はエッジ向け製品を利用する

端末側で動かす処理が決まったら、それを載せる基盤を選びます。エッジ向けの製品を使うと、基盤の整備を一から行わずに済みます。

AVerMediaは、NVIDIA Jetson向けのJetPack基盤を自社製品に合わせて調整した独自のBSP(ボードサポートパッケージ)を提供しています 。JetPack 7.2ではJetson OrinとJetson Thorが共通のJetPack 7基盤に統合され、現行世代と次世代のJetsonを同一の開発環境で扱えるようになりました。また、メモリ効率の改善とエージェンティックAIのネイティブ対応により、次世代ロボティクス用途に対応するとされています 。

世代をまたいで同じ開発環境を使えることは、長く運用する機器では確認しておきたい点です。

冗長化と運用体制を一体で開発する

安全対策は、後から足す機能ではなく、開発の対象そのものとして扱われています。

ロボトラックは、調達資金をモジュール型AIベースの技術とフィジカルAI技術に加え、車両の冗長化、安全性評価および運用体制の一体的な開発に活用します 。装置の二重化だけでも、評価だけでも、運用ルールだけでもなく、冗長化・評価・運用体制の3項目をまとめて開発の対象にしています。

アトラックラボも、実用化に向けて自律歩行や遠隔操作、AIによる周囲の認識性能などを強化するとしています 。自律で動く機能と、人が遠隔で操作する手段が並んで挙げられています。

安全対策は、冗長化・評価・運用体制をまとめて計画に入れます。

端末の保護とアクセス制御を用意する

現場の機器には、データや操作権限が集まります。ここでの考え方も整理されています。

デバイス上でAIを実行しても、デバイスの安全性が本質的に高くなるわけでも低くなるわけでもなく、セキュリティの境界が変わり、エンドポイントの完全性がより重要になるとされています 。具体的な備えとして、次のような形が示されています。

  • SurfaceのCopilot+ PCはSecured-Core PCとして、TPM 2.0とMicrosoft Plutonセキュリティプロセッサ、ハードウェアベースのルート オブ トラストなどを統合しています
  • リコール(プレビュー)は完全にデバイス上で実行され、デフォルトではオフで、有効にするにはWindows Hello 拡張サインインセキュリティによる生体認証サインインが必要です
  • IT管理者はMicrosoft Intuneを通じて、リコールの有効化・無効化、スナップショットの保持の制御、コンテンツフィルターの適用を行えます

端末側で処理を完結させる方針を採るなら、その端末の認証、暗号化、管理手段を合わせて用意することになります。

期間と用途を限った提供から始める

いきなり全面展開せず、範囲を限って始める形が事例に共通しています。

  • AVerMediaのBSPはベータ版であり、事前評価、検証、アプリケーション先行開発を目的として提供されています
  • デジタル庁の源内提供は地震への対応を目的とした試験的・臨時的なもので、発表と同日の11時をめどに開始し、3週間程度で終了する予定とされています
  • デジタル庁は提供機能を対話型AIの「チャット」と一部のAIアプリ、プロンプト例に限り、データストレージやデータ共有機能は提供していません

期間、用途、機能のそれぞれに線が引かれています。始めてから広げる余地を残しつつ、最初の範囲を小さく保つ形です。

最初の提供は、期間・用途・機能の3つで範囲を限定します。

資金と体制を確保して実証を続ける

現実世界で動くAIは、公道や現場での確認を重ねる必要があり、その期間を支える体制が要ります。

ロボトラックはシリーズAラウンドのファーストクローズとして第三者割当増資により約52億円を調達し、開発および実証体制を強化するとしています 。同社は2024年4月の設立以降、経済産業省や国土交通省などの支援事業を通じて、レベル4自動運転システムの社会実装に向けた公道実証を進めてきました 。

AVerMediaも、利用者からのフィードバックと社内テストに基づいて、正式版の提供に向けた改良を継続するとしています 。試して直す流れが、あらかじめ計画に含まれています。

結論

事例から読み取れる進め方を整理すると、次のようになります。

  • 対応範囲を場所や区間で先に定めます。アトラックラボは災害現場・倒壊建物内・インフラ設備点検を、ロボトラックは高速道路から一般道、物流施設内までを挙げています
  • 判定対象を搭載機構と対応させます。スパイダーロボはカメラで画像を認識し、2本の脚で触れて硬い・柔らかいを判定します
  • 安全対策は個別機能ではなく、車両の冗長化、安全性評価、運用体制の一体的な開発として扱われています
  • 処理場所の切り分けと、端末側の認証・暗号化・管理を前提として用意します
  • 始め方は、期間・用途・機能を限った試験的提供か、評価と検証を目的としたベータ版という形をとっています

難しい発想は必要なく、使う場所を書き出し、そこで判定したい内容と必要な機構を対応させ、安全対策と提供範囲を合わせて決めていくことが、フィジカルAI導入の土台になります。