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社内マニュアルのAI検索と多言語対応の作り方

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目次
  1. 概要
  2. 社内の問い合わせ対応の負荷は増加している
  3. マニュアルは検索できる形への変換が必要
  4. 各種文書をナレッジDBへ格納する
  5. RAGで回答と根拠箇所を同時に提示する
  6. 多言語対応は同じ検索の仕組みで実現する
  7. 正確さが要る回答は定型AIや人が担当する
  8. 機密情報は環境と権限の設計で保護する
  9. 精度を検証してから全体へ展開する
  10. 結論

概要

社内の手順や規定について「これはどこに書いてあるのか」と聞かれ、その都度探して答えている。そんな時間が積み上がっている職場は多いと思います。

キヤノンマーケティングジャパンが2026年6月12日から15日に情報システム担当者111人へ実施した調査では、ヘルプデスク業務の負荷が3年前より増加していると答えた人が73.0%、業務に課題を感じている人が80.2%でした キヤノンMJ調査:生成AIのヘルプデスク活用。一方でMOLTONは、マニュアルやプレイブックを整備しても実務では参照されず、結局はOJTと経験則に依存する状況が企業規模を問わず共通していると述べています MOLTON×リコー、法務AIで暗黙知承継PoC。文書があることと、必要なときに読まれることは別の問題です。

事例が示す作り方は共通しています。まず各種の文書をナレッジのデータベースへ格納します。次にRAG(検索拡張生成)で、質問への回答と根拠になった箇所を同時に提示します。静岡市は庁内マニュアルや業務資料をもとにこの形で回答する『職員向けFAQシステム』を、2026年7月より全職員向けに運用開始しました 静岡市がAlli LLM App Marketで庁内FAQ運用

多言語対応は、別の仕組みを追加するのではなく同じ利用の中で機能します。ある中小企業では、生成AIの多言語対応でマニュアルを母語に翻訳したり、分からない点を自分の言葉で質問したりできるようになり、資料を配布して読んでもらう形から、AIに問いかけて必要な情報を取り出す形へ変わりました 中小企業の生成AI多言語活用で情報共有

そのうえで、正確さが求められる部分は分担します。KDDIは、柔軟な応答が要る場面に生成AI、正確性が求められる回答に既存の定型AIを使うハイブリッド構成を採用しました KDDI生成AIチャットボットで回答時間短縮。機密性が高い情報は環境側で守ります。共同印刷とSI&Cは、外部ネットワークにいっさい接続せず専用端末内で全処理を完結する完全プライベートローカルLLMの実証実験を、2025年4月より本格開始するとしています 共同印刷×SI&Cの完全プライベートLLM実証

社内の問い合わせ対応の負荷は増加している

まず、この取り組みが必要になる背景を数字で確認します。

キヤノンマーケティングジャパンの調査は、従業員数300人以上1000人未満の企業に勤める情報システム部門の担当者111人を対象に、2026年6月12日から15日にかけて実施されたものです 。

  • 社内ヘルプデスク業務の負荷が3年前と比べて「大幅に増加している」は20.7%、「やや増加している」は52.3%で、合計73.0%
  • 業務に課題を「非常に感じている」は26.1%、「やや感じている」は54.1%で、合計80.2%
  • 課題の内容では「人員不足により、一人当たりの負担が大きい」が55.1%で最多。2025年調査の50.6%から4.5ポイント増加
  • 生成AIの活用・検討領域では、FAQ自動作成が62.9%

問い合わせの量そのものより、それを受ける人の数が足りていない、という形の負荷です。だからこそ、聞かれる前に自分で調べられる状態をつくることが対策になります。

負荷の中身は人員不足です。担当者を増やすかわりに、質問する側が自分で答えにたどり着ける経路を用意する、という発想になります。

マニュアルは検索できる形への変換が必要

文書がないから答えられないのではなく、文書はあるのに読まれない、という状況が起きています。

MOLTONがリコーと開始した実証実験の背景では、マニュアルやプレイブックを整備しても実務では参照されず、結局はOJTと経験則に依存する構造的な課題が、企業規模を問わず共通していると指摘されています 。

静岡市も、導入前の重点課題として次の2点を挙げていました 。

  • 庁内に散在する膨大なマニュアルや規定文書の検索性向上
  • 職員間での問い合わせ対応工数の削減

さらに、読み手側の条件によって届かないこともあります。中小企業の事例では、紙のマニュアルや文書による情報共有は外国人従業員にとって言語面の壁があり、十分に浸透しにくかったと述べられています 。

つまり課題は文書の不足ではなく、探しにくさと、読み手に合っていないことの2つです。

各種文書をナレッジDBへ格納する

最初の作業は、社内に散らばっている文書を、AIが参照できる場所へまとめることです。

共同印刷とSI&Cの実証実験では、さまざまなファイル形式のドキュメントをナレッジとして活用できるようにしてデータベースへ格納し、社員がそのナレッジをセキュアな状態で利活用する流れが示されています

共同印刷×SI&Cの完全プライベートLLM実証AI活用事例の構造図対応実現設計入力構築提供支援寄与効果展開背景秘匿・知財への慎重要望プライベートAI活用制約外部網非接続の完結その他ナレッジDB格納AI処理完全オフラインLLM人の役割SI&Cとの共同実証利用セキュアな業務利用成果作成時間30%削減期待結論全社展開と外販計画https://www.kyodoprinting.co.jp/release/2025/20250331-8828.html
共同印刷×SI&Cの完全プライベートLLM実証

。静岡市も、庁内マニュアルや業務資料等をシステムの参照対象としました 。

格納の仕方そのものも設計の対象です。静岡市の選定では、Alli LLM App Marketについて、運営管理の方法、管理者所属や権限範囲、使用する生成AIモデルの選択、ドキュメント格納ルールなど、組織の運用方針に合わせた設計・運用が可能な点が評価されました。

  • 対象にする文書の範囲を決める(マニュアル、規定、業務資料など)
  • 複数のファイル形式をそのまま扱えるかを確認する
  • どの部署の文書を、誰が、どのルールで格納するかを決める
  • 更新された文書をどう反映するかをあわせて決める

RAGで回答と根拠箇所を同時に提示する

文書を格納したら、次は答え方です。ここで使われているのがRAG(検索拡張生成)です。

静岡市の『職員向けFAQシステム』は、職員からの質問に対し、庁内マニュアルや業務資料等をもとに生成AIが回答を生成し、根拠となった該当箇所をあわせて提示します

静岡市がAlli LLM App Marketで庁内FAQ運用AI活用事例の構造図前提解消実現検証提供採用今後背景人口減少下の行政運営課題資料検索と問合せ負担要望処理時間の創出AI処理RAG回答と根拠提示成果回答精度80%以上利用職員向けFAQ運用結論定着と活用拡大https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000104.000034106.html
静岡市がAlli LLM App Marketで庁内FAQ運用

。職員は提示されたソースを即座に自ら確認できるため、資料の検索・照合にかかる時間を短縮でき、確かな根拠に基づいた迅速な市民対応につながる点が評価されました。

もう一つの利点は、運用の負担です。事前にすべての想定質問と回答を作成しなくても、庁内マニュアルや業務資料等をもとにAIが回答を生成できるため、従来型のFAQ運用に比べて、継続的な更新・管理の負担軽減が期待されています。

回答だけを返す仕組みでは、内容が正しいかを利用者が判断できません。根拠箇所を同時に示すことが、そのまま業務で使える条件になります。

多言語対応は同じ検索の仕組みで実現する

多言語対応は、翻訳システムを別に導入する話ではありませんでした。

ある中小企業は、当初「少しでも業務を効率化したい」という目的で生成AIの活用を始めました。その後、人手不足を理由に外国籍の従業員を採用したことで、AIの別の価値が見えてきたとされています 。

具体的にできたのは次のことです。

  • マニュアルの内容を従業員の母語に翻訳する
  • 分からない点を自分の言葉でAIに質問し、回答を得る

この結果、資料を配布して読んでもらうという情報伝達から、AIに問いかけて必要な情報を取り出すという形に変わったことが、結果的に言語の違いを乗り越えることにつながったと考えられています。同じ文書、同じ質問の仕組みのまま、利用者の言語だけが変わる形です。

正確さが要る回答は定型AIや人が担当する

生成AIにすべてを任せない、という分担も事例に共通しています。

KDDIのチャットボットは、定型AIで問い合わせの意図が特定できない場合に生成AIを使います。長文の問い合わせは生成AIが要約して利用者に確認し、情報が不足している場合は不足分を聞き直して意図を特定します。意図が特定できた後の回答には、正確性が特長の既存の定型AIを使う構成です

KDDI生成AIチャットボットで回答時間短縮AI活用事例の構造図補完特定担保短縮未解決引継ぎ課題意図不明が約3割制約回答の正確性AI処理生成AIで意図補完AI処理定型AIで回答AI処理会話を要約成果回答時間を短縮利用アドバイザーへ引継ぎhttps://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000022.000033151.html
KDDI生成AIチャットボットで回答時間短縮

。それでも解決しない場合は、生成AIが会話を要約してアドバイザーへ引き継ぎます。事前の検証では、既存のチャットボットでの対応と比較して約5分程度短縮できた事例が確認されています。

人による確認の範囲も、あらかじめ決めておく対象です。中小企業のデジタル活用支援に携わってきた小池明氏は、AIを利用する業務工程を整理し、社外に出す情報か社内で利用する情報かを基準に、人による確認の対象を絞ることを提案しています 。社内向け資料は一定の誤りを許容する前提を共有し、社外向け資料の金額や契約条件などは人が責任を持って確認する、という切り分けです。

生成AIは質問の整理と要約を担い、正確さが求められる部分は定型AIや人が担当します。確認の責任を個人の注意力ではなく、組織のルールに置くことが前提になります。

機密情報は環境と権限の設計で保護する

社内マニュアルには、外に出せない情報が含まれます。ここは使い方ではなく、環境側の設計で対応されています。

  • 共同印刷とSI&Cの実証実験環境は、LLM利用において外部ネットワークにいっさい接続せず、専用端末内で全処理を完結します
  • Alli LLM App Marketは、データをLLMの学習対象から除外し、多要素認証、SSO連携、IP制限を実装し、オンプレミス環境でも利用できます
  • 静岡市の選定では、共通アカウントを含む柔軟なアカウント運用に対応しながら、利用状況を把握できるログ管理機能を備えている点が評価されました

もう一つ、環境を用意しないことで生じる問題があります。企業が業務利用を想定した生成AI環境を用意していないために、従業員が個人契約のAIサービスを無断で利用する「シャドーAI」です。小池氏は、放置することだけは避けるべきだとし、導入時の登録制など簡単な仕組みでもよいので、どのAIツールが社内で利用されているかを情報システム部門やセキュリティ担当が一元的に把握することが重要だと述べています 。

精度を検証してから全体へ展開する

いきなり全社に配るのではなく、使えるかどうかを先に確かめた例があります。

静岡市では、複雑なマニュアル等のドキュメントを対象とした検証において、設定した評価基準に基づき80%以上の回答精度が確認されました。また、検証に参加した職員全員から「業務で活用できる」との評価を得ています 。この検証を経て、2026年7月より全職員を対象に運用が開始されました。

広げ方も設計に含まれます。共同印刷とSI&Cは、将来的な全社展開を見据えたシステム設計と、他業種・他業務への展開を視野に入れた柔軟なアーキテクチャを、実証実験環境の特徴として挙げています 。

運用が始まった後に見るべき点もあります。小池氏は、効果測定の第一段階として、導入したAIが実際に使われているか、つまり利用したユーザー数の把握は必ず行うべきだとしています 。

  • 実際の文書を使い、回答精度を評価基準に沿って確認する
  • 参加者が業務で使えると判断できるかを確かめる
  • 全体展開を見据えた設計にしておく
  • 展開後は利用ユーザー数を把握する

結論

社内マニュアルをAIで検索・多言語対応できるようにする作り方を、事例から整理すると次のようになります。

  • 各種ファイル形式の文書をナレッジのデータベースへ格納し、格納ルールを組織の運用方針に合わせて決める
  • RAGで回答を生成し、根拠となったマニュアルや規定文書の該当箇所を同時に提示する
  • 多言語対応は別の仕組みではなく、同じ生成AI利用の中で母語への翻訳と自分の言葉での質問として機能する
  • 正確性が求められる部分は定型AIや人が担い、生成AIは意図の整理や要約を担当する
  • 機密性の高い情報は、外部網に接続しない環境やオンプレミス、権限とログの管理といった環境側の設計で対応する

回答精度と業務での利用可否を検証したうえで全職員へ展開した例が静岡市です 。そして負荷の実態としては、ヘルプデスク業務に課題を感じている担当者が80.2%に上っています 。

新しい発想は必要ありません。手元にある文書を格納し、根拠つきで答えられるようにし、精度を確かめてから広げる。この順番で進めることが大切です。