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生成AI研修を業務へ定着させる設計と運用

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目次
  1. 概要
  2. 研修後に使われない状態が課題として語られている
  3. 受講者自身の業務課題を題材にする
  4. つまずきを拾う担当者を置く
  5. 入口の心理的ハードルを仕組みで下げる
  6. 試行錯誤を共有する場を研修の外に続ける
  7. 共有の担い手を受講者側へ移していく
  8. 定着の状況を利用の指標で確かめる
  9. 次の段階を利用頻度と業務プロセスに置く
  10. 結論

概要

生成AIの研修を実施したのに、現場で使われないままになる。この悩みは多くの企業で共通しているようです。事例を読むと、定着している取り組みには「受講者自身の業務課題を題材にする」「つまずきを拾う担当者を置く」「試行錯誤を共有する場を研修の外に続ける」という3つの要素が揃っています。

キユーピーは、自身の業務課題を生成AIでどう解決したいかを書いて応募する「生成AI使い倒しコンペ」を実施し、テーマもツールも参加者自身が決める設計にしました。3回でのべ約1,000人が応募し、約700人が実際に参加しています。あわせてメンター制度で1対1のサポートを用意し、社内コミュニティサイトでは従業員が自らTipsやプロンプトを投稿し合う状態が生まれました。結果として2025年には、パソコンを日常的に使う従業員の約7割が月1回以上AIに触れるようになっています キユーピー、パソコンを日常的に使う従業員のAI利用約7割

キリングループはボトムアップ施策を最も重要なポイントとして掲げ、Microsoft 365 Copilotの導入約半年でユーザー6,000名超、利用率8割以上を維持しています キリンのMicrosoft 365 Copilot全社展開。研修サービスの側でも、AIZUSは「使い方は理解していても業務で活用できない」という課題を背景に、少人数・全8回のワークショップ、講師の伴走支援、1年間のコミュニティを組み合わせました AIZUSで13種AIを業務へ定着する研修。「AIシゴト革命」は導入して終わりにせず、定期的なコミュニケーションを通じた伴走支援で、現場で使いこなせるようになるまで支援するとしています AIシゴト革命で中小企業のAI活用定着を支援

研修を「受ける機会」ではなく「自分の仕事を持ち込んで、詰まったら相談でき、やったことを共有できる場」として設計する。定着している事例に共通するのは、この形です。

研修後に使われない状態が課題として語られている

まず、事例の側が何を課題として挙げているかを確認します。

AIZUSは、生成AIへの関心が高まる一方で、使い方は理解していても業務で活用できない、情報が多く何から始めればよいかわからないという課題が顕在化していると述べています 。「AIシゴト革命」も、現場から「具体的な使い方がわからない」「ツールを導入したものの、現場での活用や定着が進んでいない」という声が多く聞かれると説明しています 。

社内展開の側でも同じ壁が語られています。キユーピーでは、グループ専用の生成AI環境「Q-unity」の公開後、上位2〜3割のアーリーアダプターはすぐに使い始めました。しかし残る約6割は「使わなくても、今の業務は回る」という状態でした 。デジタル推進部の竹内氏は、既存のやり方でそこそこ回っていて劇的に困っていない人たちは、メリットよりデメリットが気になってしまうと語っています。

つまり、知識を伝える研修だけでは足りない部分がはっきりしています。困っていない人にとって、新しいやり方を覚える理由がないためです。

キユーピー、パソコンを日常的に使う従業員のAI利用約7割AI活用事例の構造図推進公開安全性共有活用支援利用増利用次段階背景全社AI活用方針制約情報漏えいの不安課題利用しない約6割人の役割使い倒しコンペAI処理Q-unity人の役割社内コミュニティ成果月1回利用約7割結論AIのバディ化https://ai-keiei.shift-ai.co.jp/interview-f7-kewpie/
キユーピー、パソコンを日常的に使う従業員のAI利用約7割

受講者自身の業務課題を題材にする

そこで最初の要素が、学ぶ題材を受講者自身の仕事から取ることです。

キユーピーのコンペは、自身の業務課題を生成AIでどう解決したいかを書いて応募する形式で、テーマもツールも参加者が決めました。広報なら記事作成、営業なら提案資料の壁打ち、生産部門なら生産量の分析と、各自が自分の業務に引きつけてプロンプトを書いています 。竹内氏は、詳細な取扱説明書を用意して正しい使い方を教えるようなものではないと最初から分かっていた、と述べています。

研修サービスも同じ方向を向いています。

  • 「AIシゴト革命」は、一般的なAI研修と異なり日常業務に直結した内容を提供し、学んで終わりではなく実務で活用できる設計だとしています
  • AIZUSは、広告バナー・プレゼン資料・動画制作といったクリエイティブ業務から、議事録作成・情報収集・要約・資料作成といったバックオフィス業務まで、業務シーンに沿ってAI活用を扱います
  • どちらも、ツールの操作説明ではなく業務への組み込みをゴールに置いています

自分の仕事が題材であれば、うまくいったときの結果がそのまま業務の成果になります。「使わなくても回る」状態を、受講者自身が具体的な形で崩せるわけです。

つまずきを拾う担当者を置く

2つ目は伴走です。題材を持ち込んでも、途中で詰まったまま放置されれば戻ってきません。

  • キユーピーはコンペにメンター制度を用意し、1対1のサポートを申し込めるようにしました
  • AIZUSは1クラスの受講人数を限定して一人ひとりに目が行き届く環境をつくり、つまずきを放置しない環境を整えているとしています
  • 「AIシゴト革命」は、定期的なコミュニケーションを通じた伴走支援を行うとしています
  • キリングループは各社・各部門にAI推進担当者を配置し、現場主導での活用や業務プロセス見直しを進めやすい枠組みを整備しました

配置の仕方はそれぞれ違います。研修期間中のメンター、少人数クラスの講師、契約期間中の定期連絡、そして組織側の常設担当者。共通しているのは、質問できる相手が名前つきで決まっている点です。

入口の心理的ハードルを仕組みで下げる

伴走と並んで事例に出てくるのが、最初の一歩を踏み出しやすくする仕組みです。

キユーピーは2024年6月に、グループ専用の生成AI環境「Q-unity」を全従業員向けに公開しました。当時は「入力した情報が学習に使われるのでは」といった不安が根強く、自社環境で安全に使える場を用意したことで心理的安全性を担保しながら使ってもらえた、と竹内氏は述べています 。

学ぶ側の入口も同様です。

  • AIZUSはLv.0で、AIとの基本的なやり取りに慣れながら、情報を守る基本ルールもあわせて学ぶ構成にしています
  • キリングループはオンラインセミナーに参加制限を設けず、あえて「簡単すぎるかもしれない」と感じるレベルから始め、30分単位の短いプログラムを多数用意しました
  • 「AIシゴト革命」は、AI初心者でも取り組みやすい難しすぎない内容にしていると述べています

不安ややりにくさを個人の気持ちの問題として扱わず、環境やプログラムの側で下げている点が共通しています。

試行錯誤を共有する場を研修の外に続ける

3つ目は共有です。研修期間が終わった後に何が残るかを決める部分でもあります。

キユーピーはコンペの試行錯誤を全員でシェアし、事例を社内サイトに掲載して「これなら自分にも使えそう」という気づきを横へ広げました。社内コミュニティサイトでは、「展示会でいただいた大量の名刺を、うまく整理する方法ないですか」という相談に別の従業員がプロンプトで応じ、それを見た人が「いいね」を付けて口コミで広がる形になっています 。

  • AIZUSはワークショップ終了後もDiscordの受講生限定コミュニティに参加でき、初回受講から1年間、学習と実践の定着を支援します
  • AIsmiley Communityは、非エンジニアのビジネスパーソンが明日から実務で使えることに特化し、ノウハウ共有と相互相談ができる場だとしています AIsmileyのAI導入相談と実務知提供
  • どちらも、社内・社外という違いはあるものの、研修の期間を越えて相談し続けられる場所を用意しています

研修は終わりますが、業務は続きます。終了後に質問を投げられる場所があるかどうかで、学んだことが残るかが変わります。

共有の担い手を受講者側へ移していく

共有の場は、用意しただけでは推進側の発信で終わります。事例が示しているのは、担い手を受講者側へ移していく動きです。

キユーピーはコンペにもう一つの狙いを持たせていました。参加者を各部署のインフルエンサーに育て、現場のキーパーソンを先に仕込んでおくという布石です。社内コミュニティサイトも、最初は推進メンバーを中心とした発信でしたが、次第に現場の従業員が自らTipsやプロンプトを投稿し始めました 。

キリングループは、約500名のBudicleによるボトムアップ施策で浸透を図っています キリンのMicrosoft 365 Copilot全社浸透と6,000人超利用。AI初心者向けセミナーの運営を新入社員のメンバーに任せた例もあり、AIへの抵抗感がなく配信でのコミュニケーションに慣れた世代が、参加者のコメントに的確に応じて場を盛り上げたと紹介されています 。

推進部門が全員に教え続ける形には人数の限界があります。研修の参加者が次の共有役になることで、広がり方が変わります。

定着の状況を利用の指標で確かめる

設計した施策が効いているかは、利用の状況で確かめられます。

  • キユーピーでは2025年に、パソコンを日常的に使う従業員の約7割が月1回以上AIに触れ、毎日または週の半分以上使う従業員も約半数まで増えました
  • キリングループはMicrosoft 365 Copilotの導入約半年で、ユーザーが6,000名を超え、利用率8割以上を維持しています
  • 「AIシゴト革命」は2026年7月7日に提供を開始したサービスで、導入企業で実現した定量成果は示されていません
  • AIZUSは2026年8月29日開講の第1期を募集する段階で、受講後の定着実績は示されていません

数値が出ているのは社内展開の2社です。研修サービス2件は設計方針として課題持参・伴走・共有を掲げていますが、その効果を示す実績はまだ公表されていません。サービスを検討する際は、この点を確認しておく必要があります。

なお、キユーピーとキリングループが示しているのは「何人が、どのくらいの頻度で使っているか」という利用の指標です。受講者数や満足度ではなく、研修後に業務で使われているかを直接見る形になっています。

次の段階を利用頻度と業務プロセスに置く

利用が広がった先で、両社は次の目標を掲げています。

キユーピーの2026年のテーマは「バディ化」です。たまに触るのではなくAIを毎日の相棒にする状態を目指し、段階別の講座を展開しています。あわせて、SNSの情報や購買データをもとに疑似人格を持つ「生活者エージェント」を約2,000体作成し、マーケティングプロセスへの組み込みを2025年から進めています 。キリングループも、Copilot Studioの導入とAgentic AIによる業務プロセス変革を見据えています 。

利用率の次に、頻度と業務プロセスそのものが目標になっている形です。ただし竹内氏は、AIは手段でしかなく、まず業務を棚卸しして本当に必要なものを見極め、その上で初めてAIは効果を発揮すると述べています。壁打ちはAIに任せてもよいが、最後に意思を入れるのは人間であり、その主導権だけは譲れない、とも語っています 。

結論

生成AI研修を業務定着につなげる設計は、事例から次のように整理できます。

  • 受講者自身の業務課題を題材にする。キユーピーはコンペで、テーマもツールも参加者が決める形にした
  • つまずきを拾う担当者を置く。メンター、少人数クラス、定期連絡、部門のAI推進担当者と形は違うが、相談先が決まっている
  • 試行錯誤を共有する場を研修の外に続ける。社内コミュニティやDiscordのように、期間を越えて相談できる場所を用意する
  • 共有の担い手を受講者側へ移す。推進部門の発信から、現場の投稿やセミナー運営へ広げていく

キユーピーは、自身の業務課題を持ち込むコンペ、メンターによる1対1サポート、社内コミュニティでの共有を組み合わせ、2025年にパソコンを日常的に使う従業員の約7割が月1回以上AIに触れる状態に至りました 。キリングループは、AI推進担当者の配置、参加制限のないセミナー、約500名のBudicleによるボトムアップ施策を通じ、導入約半年で利用率8割以上を維持しています 。AIZUSと「AIシゴト革命」も、学んで終わりにしないことを設計方針として掲げ、少人数ワークショップや定期的なコミュニケーションによる伴走、継続コミュニティを組み込んでいます 。

ただし、定量的な定着状況が示されているのはキユーピーとキリングループの社内展開であり、2026年に開始した研修サービス2件については導入企業での成果は示されていません。

研修の設計を変えるために、特別な発想は必要ありません。題材を受講者の仕事にし、相談先を決め、共有の場を研修の後まで続ける。事例が示しているのは、この3つを組み合わせることです。