生成AIと業務ルールを組み合わせた業務フロー設計の実際
参照したAIgram
目次
概要
生成AIを業務に入れるときに「どこまで任せていいのだろう」と迷われる方は多いと思います。実際の事例を読むと、うまく回っている仕組みはどれも、生成AIを単独で使っていません。もともとあった業務ルールや決められた処理と組み合わせて、担当範囲を限定しています。
- KDDIのチャットボットは、生成AIが長文を要約したり不足情報を聞き直したりして意図の特定を支援し、意図が特定できた後の回答は正確性が特長の定型AIが担うハイブリッド構成を採っています KDDI生成AIチャットボットで回答時間短縮
- おまかせMEOは、設定条件に合う口コミへAIが返信文を生成・送信し、アラートが検知した要注意・規約違反の口コミは自動返信の対象外として人手対応にしています おまかせMEOの口コミ・投稿・分析自動運用
- エクサウィザーズは、AIフローデザイナーに設定済みのレビュー観点で経営会議資料を自動チェックさせ、その仕組みを起案者にも開放しました AIフローデザイナーで経営会議レビューを起案者に開放
- 店番長のAI指示アシスタントは、本部担当者が入力した要点に、支援で培った知見とアプリ設定情報をシステムプロンプトとして組み合わせ、GPT-4 Turboに入力します 店番長AI指示アシスタントによる本部指示作成支援
- TISIとアットストリームコンサルティングは、6種類の資料の下書きを生成AIに作成させ、2025年度の複数の実案件で工数を従来比3〜7割削減し、品質のばらつきも抑制しました TISI、AIエージェントでコンサル工数最大7割減
生成AIの担当範囲を業務ルールで限定し、正確さが要る処理と例外対応を別に置く。これが各事例に共通する設計です。効果は、時間短縮と品質のばらつき抑制として表れています。
意図の整理は生成AI、確定した回答は定型処理
まず、生成AIと既存の仕組みをどう分けるかという話から始めます。KDDIのカスタマーサポートは、この分け方がはっきりしている事例です
。
既存のチャットボットに実装されている定型AIでは、お客さまの問い合わせ意図を特定できないものが全体の約3割ありました。長文で書かれていたり、判断に必要な情報が足りなかったりするためです。ここに生成AIを入れて、長文を要約して認識しやすい形に変えてお客さまに確認したり、不足情報を聞き直したりすることで、意図の特定を支援しています。
そして意図が特定できた後の回答は、定型AIが担います。人が話すように柔軟な受け答えができるのが生成AIの特長で、正確性が特長なのが定型AIです。その特長に合わせて、同じ会話の中で担当を分けています。
生成AIには入力を整える役割を任せ、答えを確定させる処理は既存の仕組みに残す。回答の正確性が求められる業務では、この分け方が現実的です。
自動で処理する範囲を条件で決める
次に、どこまでを自動で処理するかという線引きです。おまかせMEOのGoogle口コミ自動返信は、この線引きを設定条件として持っています 。
- 自動返信の対象は、星評価や時間帯などの設定条件に合う口コミに限られます
- 味・衛生・接客などへの強い不満表現や、口コミと対価の引き換えといった規約違反に近い表現は、口コミアラート機能が検知します
- アラートが検知した口コミは自動返信の対象外となり、人が確認して人手で返す前提になります
- 店舗独自の表現を追加できるカスタムワードにも対応しています
好意的な口コミや定型的な対応は自動で返し、人が読むべき口コミだけを人手に戻す。この線引きがあるからこそ、返信の速さを追いながらブランドや規約に関わるリスクを避けられます。
自動化する範囲を「全部か、なしか」で決めず、条件で切り分ける。例外を人へ戻す経路を先に用意しておくことが、安全な自動運用の条件になります。
暗黙のチェック観点をワークフローに実装する
線引きの話は、判断の中身にも当てはまります。エクサウィザーズのレビューAIは、人の頭の中にあった観点を明文化した事例です 。
経営会議に上げる資料のレビューは、これまで言語化されていない観点で行われていました。そのため起案者にとっては、どこを見られるのかが事前に分からず、指摘を受けてから修正する往復が生じていました。
そこで、チャット型生成AIで都度指示を出す手間を省くため、社内ツールのAIフローデザイナーでワークフローを構築しています。資料を投入すると、あらかじめ設定した観点に沿って自動でチェックが実行される仕組みです。観点の作り込みは、AIの出力への違和感を起点に進められました。指摘がずれていると感じたときに理由を突き詰め、確認の順番を「市場の定義」から「競合との差別化」へと論理構造に沿って整理させたり、指摘の粒度を具体的に落とし込んだりと、プロンプトの書き換えを反復しています。
人の判断基準を言葉にしてワークフローへ実装すると、チェックの観点が誰にでも見える状態になります。
現場の知見と設定情報をプロンプトに組み込む
観点を明文化するという考え方は、文書の作成側にも使えます。リンコムの店番長に搭載されたAI指示アシスタントが、その形です
。
本部の担当者が指示の要点となる簡単な言葉を入力すると、リンコムがお客様への支援で培った知見と、店番長アプリ上に設定してある情報をシステムプロンプトとして組み合わせ、GPT-4 Turboが業務指示を数十秒で生成します。背景には、業務指示の内容の質が多くの場合は個人のスキルに依存している、という課題の整理があります。
導入したもち吉は、一番の期待として「属人的な差が埋められる」ことを挙げ、キーワードを入れるだけで大体同じような文章が生成されるとコメントしています。正式公開版では、各社の本部や店舗の呼称をカスタマイズできるようになり、企業全体で決められた短いプロンプトの追加にも対応しました。組織ごとの決まりごとを、あとから組み込める形になっています。
生成AIに渡すのは利用者の入力だけではありません。現場の知見と設定情報をプロンプトに組み込むことで、出力の水準を揃えられます。
生成AIの出力は下書きとし人が確定させる
ここまでの事例に共通するのは、生成AIの出力をそのまま成果物にしていない点です。
- TISIとアットストリームコンサルティングのAIエージェントは、経験者のノウハウを学習した生成AIが、ヒアリング内容の要約や業務・システム課題の分析、業務フロー作成など6種類の資料の下書きを作成します
- もち吉では、AIが3、4割のところまで推敲するため、ゼロから考えるのに30分かかっていた指示作成が5分で済むようになりました
- エクサウィザーズは磨き上げたレビューAIを起案者にも開放し、現場で自らAIと壁打ちをして想定される論点や課題を事前に解消しておく使い方を想定しています
いずれも、最後に内容を確定させるのは人です。生成AIが担うのは、ゼロから書き起こす部分と、指摘されそうな点を先に洗い出す部分になっています。
生成AIの出力を下書きと位置づけると、人の作業は「作る」から「確認して仕上げる」へ変わります。
入力形式が揃わない業務は前段でテキスト化する
業務によっては、生成AIに渡す前の段階でつまずきます。不動産の物件情報登録がその例です トランスコスモスのAI-OCR物件登録自動化
。
物件情報登録書類は多様なフォーマットがあり、手書きで記入された書類もあるため、所定の書式に変換するのに多くの手間がかかっていました。東京建物不動産販売とトランスコスモスは、この課題に対してAI-OCRと生成AIの2つを組み合わせています。AI-OCRが物件情報をテキストデータ化し、生成AIが必要となるテキストデータの抽出と要約を行うことで、入力作業の大半を自動化しました。物件情報に必要となる地図情報も自動で取得します。
さらに、不動産業界特有の帳票や記入様式に対応したAI-OCRの構築と、同業界向けに独自にチューニングした生成AIの組み合わせにより、登録情報の精緻化を進めています。
入力形式が揃わない業務では、生成AIに渡す前段の処理も設計に含めます。読み取りと抽出を分けることで、それぞれを業務に合わせて調整できます。
効果は時間短縮と品質のばらつき抑制に表れる
これらの設計の効果は、公表されている範囲で次のように示されています。
- KDDIの事前検証では、既存のチャットボットでの対応と比較して、回答までの時間を約5分程度(従来の約2割)短縮できた事例を確認しています
- TISIとアットストリームコンサルティングは、2025年度の複数の実案件で論点整理や業務フロー作成などの工数を従来比3〜7割削減し、担当者の経験やスキルに依存しがちだった品質のばらつきを抑制しました
- 資料のフォーマットを標準化したことで論点・前提・結論を整理しやすくなり、関係者間の認識統一と合意形成までのリードタイム短縮に寄与しています
- エクサウィザーズは、起案者がレビューAIで事前に確認することで、経営企画やCOOとの往復にかかる時間的コストが軽減されることを期待しています
短縮された時間と、揃った品質。この2つが並んで出てくるのは、生成AIの担当範囲を限定し、判断基準や設定情報を仕組み側に持たせているからです。
効果を確認するときは、作業時間だけでなく、担当者による出来のばらつきが減ったかどうかも合わせて見ます。
結論
ここまでの事例をまとめます。参照した各事例は、生成AIを単独で使わず、決められた処理と組み合わせて業務フローに組み込んでいます。
- 意図が特定できた後の回答は、正確性が特長の定型AIに残す
- 自動返信の対象を設定条件で限り、アラートが検知した口コミは人手対応に戻す
- 言語化されていなかったレビュー観点を設定し、ワークフローとして実行する
- 現場の知見とアプリ上の設定情報を、システムプロンプトとして組み合わせる
- 形式の揃わない書類は、AI-OCRでテキストデータ化してから生成AIに渡す
おまかせMEOの事例では、自動化の目的は手を抜くことではなく、反復作業を仕組みに任せて人は例外対応と意思決定に集中することだと整理されています 。正確性が求められる箇所を定型AIに残す、危険な口コミを人手に戻す、生成物を下書きとして人が仕上げる。表れ方は違っても、AIの担当範囲を限定した設計という点は共通しています。
最先端の手法は必要ありません。いまの業務のどこに決まったルールがあり、どこに人の判断が要るのかを書き出したうえで、その間に生成AIを置く。事例が示しているのは、この組み合わせ方です。