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複数文書を横断するAIエージェントのための関係データ設計

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目次
  1. 概要
  2. AIエージェントは複数文書をまたいで回答する
  3. 横断を妨げるのは分断された業務データ
  4. 文書間の関係を紐づけて回答精度を高める
  5. 同一実体の名寄せを横断の前提とする
  6. データの意味とつながりを構造化する
  7. 業務文脈を持たせてワークフローを再設計する
  8. 暗黙知と判断基準を継続的に反映する
  9. 権限とポリシーの範囲をデータ側に持たせる
  10. 既存の業務データを基盤にして実務の文脈で動かす
  11. 定型作業への適用から自律実行へ広げる
  12. 結論

概要

AIエージェントに社内の資料をまとめて読ませたいと考えたとき、多くの方は「良いモデルを選べば答えてくれる」と期待されると思います。ただ、事例を読むと、先に整えられているのはモデルではなく、文書同士の関係を表すデータのほうです。

Sansanの契約業務クラウド「Contract One」は、紙や電子を問わず契約書をAI-OCRとオペレーターの補正でデータ化し、契約書同士の関連を自動で紐づけてデータベース化しています Contract OneのClaudeで契約確認を効率化。そのうえで、契約書同士の関係性を紐づける機能や、社名変更に伴って企業情報を名寄せする機能が、AIエージェント機能による回答の精度を高めるとされています。アクセンチュアも、部門やシステムに分散する業務知識を、AIがデータの意味やつながりを含めて理解・活用できる形に構造化(オントロジー化)するとしています アクセンチュアがAIエージェントで部門横断業務を再設計し、工数を最大90%削減

複数文書を横断して答えさせたいなら、文書同士の関係と、同じ相手を指すデータの名寄せを先に用意します。関係データの整備が、横断回答の精度を支えます。

AIエージェントは複数文書をまたいで回答する

まず、いま提供されている機能が何をしているのかを確認します。

Contract Oneでは、利用者が質問や指示をすると、AIが蓄積した契約書を横断的に検索・確認し、その結果に基づく回答を返します 。1つの文書に答えを探しに行くのではなく、複数の文書をまとめて見に行く動きです。

Microsoftの「Copilot Cowork」も同様に、組織内のリソース横断検索を行い、複数ツールにまたがるタスクを実行して成果物を返します Copilot Cowork一般提供、Claude比4割安。対象が契約書か業務ファイルかの違いはありますが、どちらも「散らばっている情報を横断して扱う」という点で共通しています。

横断を妨げるのは分断された業務データ

横断機能があっても、参照される側のデータが分断されていれば、答えは揃いません。

IBMとOpenAIは、長年分断されてきた業務プロセスやレガシーシステム、複雑な運用体制が、AIの導入と成果創造を阻害している点を課題視しています IBM・OpenAI、Codexで基幹業務AI化を支援へ。技術にアクセスできるかどうかではなく、複雑な企業環境とワークフローへ安全かつ大規模に統合できるかが論点だという整理です。

アクセンチュアも、自律的に進化し続ける仕組みの実現には、企業固有の業務やデータの体系化が不可欠だとしています 。つまり、両社とも同じ場所を出発点に置いています。

AIの回答が浅いとき、原因はモデル側だけにあるとは限りません。参照されるデータが分断されたままかどうかを確認します。

文書間の関係を紐づけて回答精度を高める

では、具体的に何を整えるのか。1つ目は、文書同士の関係です。

Contract Oneは、契約書データの蓄積・管理のほか、契約書同士の関係性を紐づける機能を持ち、これらの機能がAIエージェント機能による回答の精度を高めるとしています 。実際の動きとして、「A社との契約がどうなっているかを要約して」と指示すると、親子関係のある契約書を含む複数の契約書を分析した要約を表示します

Contract OneのClaudeで契約確認を効率化AI活用事例の構造図検索短縮軽減搭載回答短縮実行背景契約書データベース課題複数契約の手作業確認課題法務の定型確認負担AI処理Claude契約横断検索AI処理Skillレビュー利用契約内容の回答成果確認作業の短縮利用ドラフトレビューhttps://it.impress.co.jp/articles/-/29687
Contract OneのClaudeで契約確認を効率化

基本契約と個別契約、原契約と変更覚書のように、文書には元から関係があります。その関係がデータとして持たれているかどうかで、「A社との契約」という指示が何を指すのかが決まります。

同一実体の名寄せを横断の前提とする

2つ目は、同じ相手を指すデータをまとめることです。

Contract Oneは、社名変更に伴って企業情報を名寄せする機能を持ち、これも回答精度を高める要素とされています 。社名が変わった前後の契約が別の会社として扱われていれば、横断検索の結果はその時点で欠けます。

同じ仕組みの上で、「業務委託契約書のうち、準委任と明記されている契約の総件数を教えて」といった質問にも回答でき、手作業で複数の契約書を1つずつ開いて確認していた作業を短縮するとされています 。件数を数える質問は、対象がどこまでかが確定していなければ答えられません。名寄せは、その範囲を確定させる作業です。

社内で最初に確認したい点は、次の3つです。

  • 同じ取引先が、システムごとに別の名称や別のIDで登録されていないか
  • 文書同士の親子関係や更新関係が、データとして記録されているか
  • 名称変更や組織改編が起きたときに、過去のデータへ反映される手順があるか

データの意味とつながりを構造化する

契約書という限られた範囲を越えて、同じ考え方を全社に広げているのがアクセンチュアです。

アクセンチュアは、各企業の業務構造や意思決定の文脈を深く理解したうえで、部門やシステムに分散する業務知識を、AIがデータの意味やつながりを含めて理解・活用できる形に構造化(オントロジー化)するとしています 。これにより、AIの分析や提案、意思決定支援のアウトプットの精度と再現性を高めるとしています。

ここで再現性が挙げられている点は、実務では重要です。同じ質問に毎回同じ根拠で答えられるかどうかは、モデルの調子ではなく、参照されるデータの構造に左右されます。

業務文脈を持たせてワークフローを再設計する

関係データを整えると、対象は文書だけに留まらなくなります。

IBMは、IBM Consulting Advantageに組み込んだOpenAIのモデルで業務文脈を理解させたうえで日々のプロセスへAIを統合し、財務や調達、顧客対応、人事などのワークフローを再設計するとしています 。さらに、基盤上の分析機能を使って既存プロセスのボトルネックを特定し、業務の自動化、簡素化を支援するとしています。

文書を検索して答えるところから、業務そのものの組み替えへ話が進んでいます。その土台にあるのが、業務文脈をAIが扱える状態にしておくことです。

暗黙知と判断基準を継続的に反映する

構造化の対象には、書かれていない基準も含まれます。

アクセンチュアは、日々の業務を通じて蓄積される暗黙知や判断基準を、AIエージェントに継続的に反映するとしています 。そのうえで、国内大手企業の生産管理・製造や営業など、属人化しやすい非定型業務にAIエージェントを適用し、一部の顧客において業務工数を従来比で最大90%削減する成果を上げています。

一度データを整えて終わりではなく、業務のなかで増えていく判断基準を反映し続ける前提になっています。

関係データの整備は、初回の構築だけでは完結しません。判断基準が更新されるたびに反映する運用を、あわせて設計します。

権限とポリシーの範囲をデータ側に持たせる

横断できる範囲は、広ければ良いというものではありません。誰が何を見られるかは、業務上の制約です。

Copilot Coworkは、エンタープライズグレードのセキュリティとコンプライアンスにより、Microsoft 365の信頼境界内で動作し、組織の既存のポリシーやコントロールに沿った保護が適用されるとされています 。Microsoftがスーパーアプリへの統合方針を示した「Autopilots」も、組織の権限・ポリシーの範囲で継続的にタスクを処理するとされています Microsoft Copilotをスーパーアプリへ統合

横断範囲の設計は、検索性能の話であると同時に、権限設計の話でもあります。

既存の業務データを基盤にして実務の文脈で動かす

新しくデータを作り直すのではなく、すでにある業務データを参照先にする形も広がっています。

Copilot Coworkは、Microsoft 365全体の利用データを活用できるインテリジェンス基盤「Work IQ」のネイティブサポートにより、タスクが既存の業務システムに基づいて実行され、実業務のコンテキストを反映した作業が可能とされています 。

利用者側の事例として、キリングループはMicrosoft 365 Copilotを全社員の共通基盤として定着させることを狙いに導入を進め、導入約半年でユーザー6,000名超・利用率8割以上に達しています キリンのMicrosoft 365 Copilot全社展開。日々の業務が同じ基盤の上で行われることが、参照できるデータの範囲そのものにつながります。

定型作業への適用から自律実行へ広げる

関係データが整うと、質問への回答だけでなく、作業の実行まで任せる形が視野に入ります。

Contract Oneは、一連の作業を自動実行する「Skill」機能を備え、契約書のドラフトをアップロードすると自社基準に基づいてレビューする自律的な活用が可能になるとしています 。自社基準でのレビューは、過去の契約と基準がデータとして揃っていて初めて成立します。

キリングループも、次にCopilot Studio導入とAgentic AIによる業務プロセス変革を見据えています 。共通基盤の定着を経て、次の段階へ進む流れです。

結論

複数文書を横断して答えるAIエージェントを使えるものにするには、参照される側の関係データを設計する必要があります。事例から読み取れるのは、次の点です。

  • Contract Oneでは、契約書同士の関係性の紐づけと企業情報の名寄せが、AIエージェントの横断回答の精度を高める要素とされている
  • アクセンチュアは、部門やシステムに分散する業務知識を、データの意味やつながりを含めてAIが理解・活用できる形へ構造化することが、分析や提案、意思決定支援の精度と再現性を高めるとしている
  • IBMとOpenAIは、分断された業務プロセスやレガシーシステムがAIの導入と成果創造を阻害しているとし、業務文脈を理解させたうえでワークフローを再設計するとしている

社内で始めるときは、文書を集めることより先に、その文書同士がどうつながっているか、同じ取引先や同じ案件がどう表記されているかを確認するところからになります。関係データの整備は地味な作業ですが、横断回答の精度はここで決まります。