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生成AIによる業務資料の下書き標準化の進め方

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目次
  1. 概要
  2. 下書きの品質は担当者の経験に依存する
  3. 対象とする資料の種類を先に列挙する
  4. 入力は担当者の要点と既存資料で構成する
  5. 形式の違う文書を共通の構造に変換する
  6. 出力形式を固定して論点と結論を揃える
  7. 判断の観点を書き出してAIに渡す
  8. 人は下書きの確認と修正を担当する
  9. 出力への違和感を起点に指示を直す
  10. 標準化した観点は起案者にも開放する
  11. 結論

概要

業務資料の下書きを生成AIに任せるとき、「どのAIを使うか」より先に決めることがあります。それは、対象にする資料の種類、AIに渡す入力、出力する項目、そして人がどこを直すかです。

TISIとアットストリームコンサルティングは、ヒアリング内容の要約、業務・システム課題の分析、課題・要望整理、As-Is/To-Be業務整理、業務フロー作成、システム要求事項整理という6種類の資料を対象に、経験者のノウハウを学習した生成AIが下書きを作成する仕組みを開発し、2025年度の複数の実案件で工数を従来比3〜7割削減しました TISI、AIエージェントでコンサル工数最大7割減。リンコムの「AI指示アシスタント」は、本部担当者が入力した要点となる簡単なことばに、リンコムが支援で培った知見と店番長アプリ上の設定情報をシステムプロンプトとして組み合わせ、GPT-4 Turboで業務指示を数十秒で生成します 店番長AI指示アシスタントによる本部指示作成支援。富士フイルムビジネスイノベーションと杉並区の実証実験では、職員が行政評価アプリに評価文を入力し、AIエージェントが評価文案を提案し、職員がkintone上で確認・修正する流れを構築しました 杉並区行政評価を認識・構造化AIで支援。エクサウィザーズの大植は、あらかじめ設定した「大植のレビュー観点」に沿って経営会議資料を自動チェックするワークフローを、社内ツールのAIフローデザイナーで構築しています AIフローデザイナーで経営会議レビューを起案者に開放

これらの事例に共通するのは、AIに自由に文章を書かせるのではなく、入力・出力・人の修正範囲を先に決めている点です。対象資料を限定し、入力を担当者の要点と既存資料に絞り、出力項目を固定し、判断の観点を言語化してAIに渡す。人は下書きを確認して修正する側に回ります。この形にすることで、工数の削減だけでなく、担当者ごとの品質のばらつきも抑えられています。

下書きの品質は担当者の経験に依存する

標準化の話に入る前に、そもそも何が問題だったのかを確認します。

TISIらの取り組み以前、システム企画構想やコンサルティング工程の主要アウトプット(論点整理、課題抽出、業務フロー作成など)の品質は、担当者の経験やスキルに依存しがちで、作業の属人化と品質のばらつきが課題でした 。

行政の現場でも同じことが起きています。杉並区を含む多くの自治体では、施策・事業に関する文書の構成や記載形式が多様なため、内容の確認・整理に一定の時間を要し、評価の観点や評価文の記載内容に職員間でばらつきが生じやすいという課題がありました 。

チェーンストアの本部から店舗への業務指示も同様です。テンプレートを作成したり承認フローを設けてすべての指示をチェックしたりする企業もある一方、必ずしも標準化できているわけではなく、指示内容の質は多くが個人のスキルに依存しているのが現状だとされています 。

業界も文書の種類も違いますが、課題は同じです。同じ目的の資料なのに、書く人によって内容の粒度や観点が変わってしまう。生成AIの導入は、この振れ幅をどう抑えるかという話でもあります。

対象とする資料の種類を先に列挙する

最初にやるべきことは、どの資料を対象にするかを具体的に決めることです。「資料作成全般」のような広い括りでは、入力も出力も設計できません。

TISIらは、次の6種類に対象を限定して下書きを作成させています 。

  • ヒアリング内容の要約
  • 業務・システム課題の分析
  • 課題・要望整理
  • As-Is/To-Be業務整理
  • 業務フロー作成
  • システム要求事項整理

杉並区の実証実験も、行政評価業務という特定の業務を対象とし、事業計画や実績データ、過去の評価結果、他自治体が公表する行政評価関連文書といった複数の非定型文書を使いました 。

対象を定める工程そのものをサービスの最初に置いている例もあります。大塚商会の「業務プロセス自動化 AIサービス」は、まずユーザーへのヒアリング/コンサルティングによって自動化対象の業務を定め、その後に開発へ進みます 大塚商会AIサービスで定型業務を短期開発

入力は担当者の要点と既存資料で構成する

対象が決まったら、次はAIに何を渡すかです。ここで担当者に長い文章を書かせてしまうと、下書きを作る意味が薄れます。

店番長のAI指示アシスタントで担当者が入力するのは、要点となる簡単なことばだけです。残りは、リンコムが顧客への支援で培った知見と、店番長アプリ上に設定してある情報が、システムプロンプトとして補います 。実際の入力サンプルは「バレンタインシーズン 売場写真 チョコ関連」という短いものです。ここから、タイトル、カテゴリ、開始日〜期限日、通達内容、回答形式を含む業務指示が生成されました

店番長AI指示アシスタントによる本部指示作成支援AI活用事例の構造図作成支援入力参照生成短縮課題指示品質が属人化背景知見と設定情報人の役割要点を入力AI処理GPT-4 Turboで生成成果指示案を数十秒で生成成果作成時間を短縮https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000074.000003883.html
店番長AI指示アシスタントによる本部指示作成支援

杉並区の実証実験では、職員自身が行政評価アプリに入力した評価文に加えて、AIエージェントが内部データと公開データを横断的に分析し、評価文案を提案します 。担当者が持っている情報と、システム側が持っている情報を、両方入力に含める形です。

入力を設計するときの観点は、次の3つに整理できます。

  • 担当者が毎回入力するものを、要点だけに絞る
  • 毎回同じ情報は、システム側の設定やプロンプトに固定して持たせる
  • 既存の資料やデータを参照先として接続する

形式の違う文書を共通の構造に変換する

既存資料を入力に含めるとき、資料の形式がそろっていないという問題に当たります。杉並区の事例は、ここに正面から取り組んでいます。

富士フイルムビジネスイノベーションの「認識・構造化」AI技術が、異なる形式で作成された行政評価関連文書を施策単位で分解・整理し、共通のデータ構造に変換します。そのうえで、生成AIが情報を整理・分析し、評価文案を提案します

杉並区行政評価を認識・構造化AIで支援AI活用事例の構造図入力支援変換参照分析提案比較軽減課題文書確認に時間課題評価のばらつき背景行政評価文書人の役割職員が評価文を入力AI処理評価文案を提案AI処理文書を構造化成果負担軽減の可能性利用職員が確認・修正成果横断比較・分析https://www.fujifilm.com/fb/ja/news/15350
杉並区行政評価を認識・構造化AIで支援

この実証実験では、施策・事業単位で情報を構造化することにより、過去の評価結果や他自治体が公表する行政評価関連文書などとの横断的な比較・分析が可能になることを確認しました 。形式のそろっていない文書を横に並べて比べられるようになった、ということです。

アクセンチュアも、部門やシステムに分散する業務知識を、AIがデータの意味やつながりを含めて理解・活用できる形に構造化(オントロジー化)することで、AIの分析や提案、意思決定支援のアウトプットの精度と再現性を高めるとしています アクセンチュアがAIエージェントで部門横断業務を再設計し、工数を最大90%削減

下書きの品質は、AIの性能だけで決まるものではありません。参照する資料が比較できる構造になっているかどうかが、出力の精度と再現性に関わります。

出力形式を固定して論点と結論を揃える

入力の次は出力です。出力する項目を固定すると、誰が作っても同じ構成の資料になります。

TISIらは、資料のフォーマットを標準化することで、論点・前提・結論を明確に整理しやすくなり、関係者間の認識統一と、合意形成までのリードタイム短縮に寄与しているとしています 。また、生成AIの活用により、担当者の経験やスキルに依存しがちだったアウトプットの品質のばらつきを抑制しました。

店番長の生成結果も、決まった項目で構成されます 。

  • タイトル
  • カテゴリ
  • 開始日〜期限日
  • 通達内容
  • 回答形式1、回答形式2

もち吉の担当者は、この機能への一番の期待を「属人的な差が埋められる」ことだと述べています。業務指示を作る人によって文章作成の得手不得手でニュアンスが変わったり内容に齟齬が出やすくなったりするところが、AIならキーワードを入れるだけで大体同じような文章が生成されるためです 。

判断の観点を書き出してAIに渡す

出力形式を決めても、中身の判断基準が人の頭の中にあるままでは、標準化は途中で止まります。

エクサウィザーズの大植は、これまで頭の中にある言語化されていない「観点」でチェックを行っていました。そのため起案者にとっては、どこを見られるのかが事前には分からず、指摘を受けてから修正する往復や心理的な負担があったかもしれないとしています 。

そこで構築したのが、AIフローデザイナー上のレビューAIです。資料を投入すると、あらかじめ設定した「大植のレビュー観点」に沿って、自動でチェックが実行されます

AIフローデザイナーで経営会議レビューを起案者に開放AI活用事例の構造図実現自動化調整開放軽減要望判断の質と速度課題暗黙のレビュー観点AI処理レビューAI人の役割観点と指示の調整利用起案者の事前確認成果修正往復の軽減を期待https://exawizards.com/column/ai-case/aidrivendays_0003/
AIフローデザイナーで経営会議レビューを起案者に開放

同じ発想は他の事例にもあります。TISIらのAIエージェントは、経験者のノウハウを学習した生成AIが下書きを作成する仕組みです 。アクセンチュアは、日々の業務を通じて蓄積される暗黙知や判断基準をAIエージェントに継続的に反映するとしています 。

標準化の中心にあるのは、経験者の判断基準を言語化してAIに渡すという作業です。この部分は、ツールを選んでも自動的には埋まりません。

人は下書きの確認と修正を担当する

生成AIに下書きを任せると人の仕事がなくなるように思えるかもしれませんが、事例ではいずれも人の役割が明確に残っています。

杉並区の実証実験では、職員が自身で入力した情報と、生成AIが作成した文案を比較しながら内容の確認や修正が行える環境をkintone上に構築しました 。人が最終的に決めるという前提が、画面の作りに反映されています。

もち吉では、AIが3、4割のところまで推敲してくれるため、ゼロから考えるのに30分かかっていた指示作成が5分で済むようになりました 。AIが全部を仕上げるのではなく、途中まで作った状態を人が引き継ぐ形です。

人の側に求められる力も変わります。大植は、資料作成において人間に求められるのは、「ターゲットは誰か」「現状の課題は何か」「それに対してどんな解決策を提示し、どのような成長を描くのか」といった要素を箇条書きでシンプルに書き出し、その関係性や因果関係を明確に構造化する能力だとしています 。

出力への違和感を起点に指示を直す

最初から狙いどおりの下書きが出ることは、あまりありません。事例が示しているのは、出力を見て指示を直す反復です。

大植は、AIの指摘がズレていると感じたときに「なぜ違うのか?」を突き詰め、プロンプトを書き換えていきました。具体的には、確認の順番を「市場の定義」から「競合との差別化」へと論理構造に沿って整理させたり、指摘の粒度をより具体的に落とし込むように整えたりしています。この調整は過去の経営会議の資料と照らし合わせながら繰り返され、それがAIに自らの観点を実装する唯一の道だったとしています 。

この進め方は、システム開発でも同じ形をとります。大塚商会は、プロトタイプを早期に示しながら対話的に改善を重ねるバイブコーディング手法により、要件のミスマッチを抑えつつ、従来型の受託開発より開発期間を短縮してシステムを納品します 。

  • 出力を実際の業務資料と見比べる
  • ズレていると感じた箇所について、なぜ違うのかを言語化する
  • 確認の順番や指摘の粒度を、指示側で調整する
  • 過去の資料で再度試し、調整を繰り返す

標準化した観点は起案者にも開放する

観点を言語化してAIに実装すると、その観点を作った本人以外も使えるようになります。

大植は磨き上げたレビューAIを経営会議の起案者にも開放しました。現場で自らAIと壁打ちをして「想定される論点や課題」を解消しておく、いわば「大植の視点をセルフチェックできるガイド」としての活用です。属人的なチェック観点をAIに渡して再現性をつくることで、経営企画や大植自身との往復にかかる時間的コストが軽減されることを期待しています 。

TISIらも、後続工程で判断・検討が必要となる論点や課題を、前工程から先行的に可視化できるようにしました。これにより、重要な論点の検討に十分な時間を確保し、意思決定の質向上にもつなげています 。

観点をAIに実装すると、それは個人の効率化にとどまりません。後ろの工程で出る指摘を、前の工程で先に見られるようになります。

結論

生成AIで業務資料の下書きを標準化するには、対象資料を限定し、入力項目と出力形式を固定し、判断の観点を言語化してAIに渡し、人の修正範囲を決めることが必要です。

事例が示している結果は、次のとおりです。

  • TISIとアットストリームコンサルティングは、対象資料を6種類に定め、経験者のノウハウを学習した生成AIに下書きを作らせ、フォーマットを標準化することで、2025年度の複数の実案件で工数を従来比3〜7割削減し、品質のばらつきを抑制しました
  • 店番長は、入力を要点となる簡単なことばに絞り、出力項目を固定し、AIが3、4割まで推敲した下書きを人が仕上げる形にした結果、もち吉で指示作成が30分から5分になりました
  • 杉並区の実証実験は、文書を共通のデータ構造に変換して評価文案を提案し、職員がkintone上で確認・修正する流れにより、情報整理・分析の効率化や評価内容のばらつき抑制につながる可能性を示しました
  • エクサウィザーズは、言語化されていなかったレビュー観点を設定として明示し、起案者にも開放することで、往復にかかる時間的コストの軽減を期待しています
  • アクセンチュアは、暗黙知や判断基準をAIエージェントに継続的に反映する取り組みで、一部の顧客において業務工数を従来比で最大90%削減しました

特別な発想は必要ありません。手元でよく作る資料を1種類選び、毎回入力する要点、必ず入れる項目、確認したい観点を書き出すところから始められます。