生成AIの社内利用状況の可視化と業務成果の同時測定
参照したAIgram
目次
概要
生成AIを社内に入れたあと、「どれくらい使われているのか」「それで何か良くなったのか」を上司や経営層から聞かれて困る、という方は多いと思います。事例では、この二つをそれぞれ測る取り組みが確認できます。
コロプラは、ChatGPT・Claude・Google Workspaceなどチームプランで導入したサービスを管理者画面から、個人契約分を経費精算の情報から集め、さらに定期的なアンケートやヒアリングで「何の業務で、どれくらい工数が減ったか」を数値ベースで蓄積しています コロプラのChatGPT・Claude活用と効果把握。ビズリーチのAI Product Studio室は、AI利用量とプロダクト開発の生産性を継続的にチェックし、利用量が増えるほど生産性も伸びる傾向を確認しています ビズリーチのCodex活用と開発生産性評価。
成果の測り方について、ビズリーチの外山英幸氏は、売り上げや契約数といったアウトカムだけで評価するのは現時点では難しく、まずはプルリクエストの数のようなアウトプットで測り、チーム全体で増えているかを確認することから始めればよいと述べています 。キユーピーは、2025年にパソコンを日常的に使う従業員の約7割が月1回以上AIに触れ、毎日または週の半分以上使う従業員も約半数まで増えました キユーピー、パソコンを日常的に使う従業員のAI利用約7割。
そして、集めた数字は判断に使われています。コロプラは「コストに見合う成果が出たか」より「契約プランの上限まで使い切っているか」を重視し、アンケートで利用状況を確認して、使っていなければプランを下げ、また使いたくなったら戻すというサイクルで運用しています 。
コロプラは利用状況を踏まえ、契約プランを上げ下げしています。
利用量は複数の経路から集めて合算する
利用量の把握でつまずきやすいのは、AIツールが一か所にまとまっていないことです。コロプラはこれを、経路ごとに集める形で解いています 。
- Google Workspace、ChatGPT、Claudeなど、チームプランで導入しているサービスは管理者画面から利用状況を把握する
- 社内ツールを経由してアクセスするものは、そのログを使う
- 個人契約のAIサービスもある程度容認し、経費精算の情報から「この人はClaudeのMAXプランを契約している」といった形で把握する
同社の菅井健太CIOは「集められるものは一旦全部集めて、それでどれくらい利用しているかを見ています」と話しています。個人契約を禁止して数字を揃えるのではなく、容認したうえで別の経路から拾う、という進め方です
。
利用量は率と量の二つで測定する
利用量には、「どれだけの人が使っているか」と「どれだけ使っているか」の二つの見方があります。
キユーピーは、月1回以上AIに触れる従業員の割合と、毎日または週の半分以上使う従業員の割合を分けて把握しています 。2025年時点で、前者がパソコンを日常的に使う従業員の約7割、後者が約半数です。同じ「使っている」でも、頻度で層を分けると、どこまで定着したのかが分かります。
率だけを追うと止まる場所も見えています。ビズリーチは全社員がGeminiを利用できるようにして週3回以上利用する社員が95%を超えるまで利用率が上がり、その次に「量は増えたけれど、質はどうなのか」という課題に直面しました 。同社のAI Product Studio室では利用量そのものも継続的にチェックしており、外山氏自身は1カ月で約100億トークンを使っています。
利用率は「行き渡ったか」を、利用量は「どこまで使い込まれているか」を示します。片方だけでは、どちらの段階にいるのかが判断できません。
業務成果はアンケートで数値化する
利用量が分かっても、業務がどう変わったかはログには出てきません。ここを埋めているのがアンケートとヒアリングです。
コロプラは定期的なアンケートやヒアリングで「何の業務で、どれくらい工数が減りましたか」と問い、「10分の1になった」「チームが縮小しても回るようになった」といった声を数値ベースで蓄積しています 。2025年9月時点のアンケートでは、社員の3人に1人が業務量半減以下を実感しているという結果が出ています。
聞き方に工夫があります。「役に立ちましたか」ではなく、業務と削減幅をセットで答えてもらう形なので、集まった回答がそのまま数字として使えます。同社では、各チャンネルに散在する活用事例のログから、AIでレポートを自動生成する取り組みも進んでいます
。
成果はまずアウトプットの数で測る
集めた成果を、どこまで経営指標に近づけて語るかは悩みどころです。ビズリーチの二人の発言が、そのまま判断材料になります 。
- 外山氏は、アウトプットではなく売り上げや契約数といったアウトカムで評価するのが理想だとしつつ、現時点ではアウトカムだけを見るのは難しい面もあると述べています
- そのうえで、まずはアウトプットで測ればよく、プロダクト開発ならプルリクエストの数が分かりやすいアウトプットであり、チーム全体で増えているかを確認することから始めればよいとしています
- OpenAI Japanの宇都宮聖子氏は、トークン数はAIへの入力量や出力量を表す一つの指標であり、見るべきなのは売り上げや採用人数といったビジネスのKPIだと述べています
理想の指標に届かないからといって測定を止めるのではなく、いま数えられるものを数え始める、という順序です。営業なら送付件数や商談化数、バックオフィスなら処理件数のように、部門ごとに数えられるアウトプットは変わります。
利用量と成果を並べると傾向が見える
利用量と成果を別々の資料で管理していると、両者の関係は見えません。同じ表に並べると、傾向が読み取れます。
ビズリーチのAI Product Studio室は、AI利用量とプロダクト開発の生産性を継続的にチェックし、AIを使う量が増えるほど生産性も伸びる傾向を確認しています 。一方で同社では、業務の一部で「工数80%削減」「生産性200%向上」といった成果が出ている反面、会社全体で見ると10〜20%程度の改善にとどまるケースが多いとも語られています。部分の数字と全体の数字を並べているからこそ、この差が見えています。
コロプラは、経営会議の場で新しいツールの紹介、社内の活用事例、ゲームタイトルへのAI組み込みを定期的に共有しています 。数字を集めるだけでなく、同じ場に出し続けることが、投資への理解につながっています。
同じ表を見てプランを上下させる
集めた数字は、契約プランの判断にそのまま使えます。コロプラの見方は明快です 。
菅井氏は「レートリミットを上限まで使ってほしい。使えるもの全部使ってほしい。それじゃなかったら下のプランでもいいよね、という見方をする」と語っています。同社は利用状況をアンケートで確認し、使っていなければプランを下げ、また使いたくなったら戻すというサイクルで無駄を省いています。1人当たりの負担は多くても数万円程度に収まっており、新しいツールが次々と登場することを織り込んだ予算設計をしています。
「元が取れたか」を精緻に計算するより、「契約した分を使い切っているか」を見るほうが、判断がすぐにつきます。
数字が動かない層には別の手を打つ
利用率の数字が伸び悩むとき、その原因は測定の外にあります。
キユーピーは、社内向け生成AI環境「Q-unity」の公開後、上位2〜3割のアーリーアダプターはすぐに飛びついた一方で、「使わなくても今の業務は回る」という約6割の壁に直面しました 。同社が打った手は、社内報での事例紹介、外部へのプレスリリース、コーポレートサイトのDXページで接点を増やすことでした。決め手になったのは社内コミュニティサイトでの情報共有で、最初は推進メンバー中心だった発信が、やがて現場の従業員自身がTipsやプロンプトを投稿する形へ広がっています。
ビズリーチも、推進役となる「AIチャンピオン」を設け、コンテストを開催し、コミュニティ内で活用事例を共有することで、良い使い方を組織全体へ広げる取り組みを行いました 。
- 数字が動かない部門を特定するために、部門別の利用率を分けて見る
- 使っていない層には、ツールの追加ではなく事例の見える化で接点を増やす
- 現場の従業員自身が投稿・共有する場を用意し、推進側の発信だけに頼らない
利用量の数字はスキルの中身を示さない
利用量が伸びても、使い方の中身までは数字に表れません。ここを見落とすと、別の問題が起きます。
コロプラは、非エンジニア層でチャットからエージェント型ツールへステップを飛ばした結果、APIの扱い方やセキュリティの考慮、「確実でなければいけない処理」と「曖昧でもいい処理」の区別がつかないまま突き進むケースが出たと振り返っています 。現在はハンズオン形式での教育を進めています。利用量だけを見ていると、こうした状態は検知できません。
外部のプログラムも、この課題を前提に設計されています。AIZUSは、使い方は理解していても業務で活用できないという課題を背景に、13種類以上のAIツールを2カ月・全8回で扱い、プロンプト設計から業務への実装までを実践する少人数伴走型プログラムとして提供されています AIZUSで13種AIを業務へ定着する研修。AIsmiley Communityは、非エンジニアのビジネスパーソンが実務で使えるノウハウと、社内説得やガイドライン策定といった組織導入の知見を共有する場です AIsmileyのAI導入相談と実務知提供。
利用量の数字は「使っているか」までしか示しません。使い方の質は、教育の場や事例共有の場で確認する必要があります。
実行履歴を残すと業務側の進捗も追える
利用量と成果を別々に集めるのが難しい業務では、実行履歴そのものが両方の記録になります。
SNSアウトリーチを支援するKachiluは、実行予定のタスク、AIが実行中のタスク、人による確認が必要な操作、完了したアプローチの履歴を、ダッシュボード上で管理します KachiluがSNS商談・採用業務を自動化。「誰に、どのようなアプローチを行ったのか」「どこまで進んでいるのか」「どの操作で対応が必要なのか」を可視化し、実行履歴をターゲットやメッセージの見直しに活用できるとしています
。
AIが何回動いたかと、業務がどこまで進んだかが、同じ画面に並んでいる形です。
結論
生成AIの社内利用状況を把握するとは、利用量と業務成果を同じ表で追い、その表を判断に使うことです。事例が示している進め方を整理します。
- 利用量は、管理者画面・社内ツールのログ・経費精算情報など複数の経路から集めて合算する
- 利用率と利用量を分けて測定し、行き渡り具合と使い込み具合を別々に見る
- 業務成果は、業務名と削減幅をセットで聞くアンケートで数値化する
- アウトカムでの評価が難しい段階では、まずアウトプットの数で測り、チーム全体で増えているかを確認する
コロプラは、利用データ・経費精算・アンケートを集めて利用量と工数削減の実感を同時に把握し、利用状況を踏まえてプランを上げ下げしています。非エンジニア層への教育は、チャットからエージェント型ツールへステップを飛ばした反省を受け、ハンズオン形式で進めています 。ビズリーチのAI Product Studio室は、AI利用量とプロダクト開発の生産性を継続的にチェックすることで、利用量の増加に伴う生産性向上の傾向を確認しました 。
数字が伸びたあとも、測定は終わりません。キユーピーは利用率の数字が伸びた後も、たまに触るのではなくAIを毎日の相棒にする「バディ化」を2026年のテーマに掲げ、段階別の講座を展開しています 。
利用量と業務成果を一つの表にまとめておくと、プランの見直し、教育の対象、次に手を入れる部門を、同じ材料から順に決められます。