AIエージェントの工程別役割分担と導入設計の全体像
参照したAIgram
目次
概要
AIエージェントを業務に入れるときに「どのツール・AIを使えばいいんだろう」と悩まれる方は多いと思います。ただ実際の事例を見ると、先に行っているのはツールの選定ではなく、業務工程の分割です。
- 日立製作所は、Agentic AI Integration Platform 日立Agentic AI基盤でSI全工程の生産性を向上 でフロンティアAI・SI資産・企業コンテキストを結び、構想策定から運用までの工程にAIエージェントを配置しています。社内では要件定義で最大240倍、設計〜テストで約200倍の生産性向上を確認し、2027年度には全工程で30%向上を目指すとしています。
- 博報堂と博報堂テクノロジーズの「マルチエージェント ブレストAI」博報堂のマルチエージェント ブレストAIで商品開発を効率化 は、企画・製造・物流・リテール営業など各フェーズの専門人員の知識をAIに与え、市場ニーズ探索・商品企画から商品開発・デリバリーまでの議論をAI同士が行う仕組みです。
- Emperor Financial Services Group(EFSG)EFSGのCopilot Studio顧客対応統合 は、Dynamics 365上でCopilot Studioのチャットボット、AI搭載音声認識、感情分析を、それぞれ別の役割として顧客対応に組み込みました。
- 富士通 富士通、Dev BoxとGitHub Copilotで開発負荷20%削減 は、GitHub Copilotに開発者の指示に基づくテスト実施と結果の検証、編集案の提示、エラー支援という反復的なタスクを担わせ、Microsoft Dev Boxとの活用で作業負荷を20%削減しています。
工程に分ける、その工程の役割を整理する、工程の担い手を選ぶ、データをつなぐ、人の関与を残す、工程ごとに結果を測定する。これらを先に決めることで、良いAIシステムを構築することができます。
ツール選定より先に業務を工程分割し配置先を決定する
日立製作所の事例で目を引くのは、AIツールの種類を決めるより先に、工程が分割されていることです。構想策定から運用までという工程の順序があり、その各工程にAIエージェントを配置しています。
博報堂テクノロジーズも同じ順序です。「市場ニーズ探索・商品企画」から「商品開発・デリバリー」までを商品開発プロセスとして区切り、そのプロセスに関する議論をAIに担わせています 。先に工程を区切り、AIを導入しています。
最初にやるべきことは、次のように整理できます。
- 対象にする業務の始点と終点を決める(一連の仕事が何で始まり、どこで終わるか)
- それを実際の仕事の順番に沿って工程へ分ける
- 各工程での成果物と、次の工程へ渡されるものを整理する
- それを考慮し、工程ごとに使うAIエージェントを選定する
ツールから入ると、そのツールでできることを主軸に利用方法を考えてしまいます。工程を先に整理することで、業務を軸にAIを選定できます。
工程別の専門知識と課題発生箇所から役割を設計する
工程に分けたら、次はその工程がどんな役割を持っているかを整理します。マルチエージェント ブレストAIは、企画・製造・物流・リテール営業など、各フェーズの専門人員の知識をそれぞれのAIに与えています。 役割が工程ごとに必要な専門知識に沿って切り分けられている点がポイントです。
この設計には理由があります。初期の商品企画段階から多くの専門知識を持つ人材を巻き込んで打合せや検討を重ねることは、人材確保や工数の面で現実的ではない、という課題が前提にありました。そこで商品コンセプト段階から専門性や実現性などを考慮したアイデアを創出することで、商品開発で生じる手戻りを大幅に減少させ、プロセス全体の効率化を図る、という狙いが示されています。
役割を整理するときの観点をまとめると、次のようになります。
- 各工程で必要な専門知識を定義する。
- その専門知識を適用できているかを確認する。
- 適用できていない工程が、課題の発生源になっていないかを見る。
- 足りていない専門知識の部分を、AIエージェントの役割とする。
工程の役割に応じてモデルとツールを選定する
工程とその役割が決まると、次は担い手です。ここで効いてくるのが、役割ごとに求められる機能や性能が違うという点です。
Googleは、AIエージェント向けにGemini 3.6 Flash、Gemini 3.5 Flash-Lite、Gemini 3.5 Flash Cyberの3モデルを公開しています Google Gemini新3モデルでAIエージェントを強化。位置づけは次のように分かれています。
- Gemini 3.6 Flash:トークン使用量の削減と性能改善。
- Gemini 3.5 Flash-Lite:低遅延の大量処理。
- Gemini 3.5 Flash Cyber:CodeMenderでの脆弱性検出・検証・修正案の作成。
Flash Cyberは、政府機関と信頼できる提携先へ限定試験として提供されるものです。つまり、役割によっては誰でもすぐ使えるとは限らない、という前提も含めて選ぶことになります。
EFSGの顧客対応も、機能ごとに別の役割へ割り当てられています 。FAQへの即時回答はチャットボット、通話の自動文字起こしはAI搭載音声認識、管理者が介入の優先順位を判断する支えは感情分析です。同じ「顧客対応のAI」でもひとまとめにはせず、担わせる仕事に合わせて別々の仕組みを適用させています。
工程と役割の切り分けと、そのツールを選定することは別の作業です。整理する順番は、役割で切り分ける → その役割に合う機能や性能を持つものを選ぶ、がおすすめです。
業務データと既存資産を接続するデータ基盤が必要
役割と担い手が決まっても、それだけでは動きません。各エージェントが仕事をするには、参照する情報が必要だからです。
日立製作所のAgentic AI Integration Platformは、フロンティアAI、SI資産、企業コンテキストを結びつける構成をとっています 。AIモデルだけでなく、これまで積み上げてきたSIの資産とその企業ならではの文脈を結び付けています。
EFSGは、全チャネルにわたる顧客とのやり取りを管理する単一の統合環境として、Dynamics 365 Contact Center、Dynamics 365 Customer Service、Microsoft Power Platform、Microsoft Copilot Studioを採用しました 。そのうえで、Copilot Studioで作ったチャットボットを顧客データと連携させています。請求に関する問い合わせの電話があったとき、チャットボットが過去のやり取りの概要を自動的に生成できるのは、顧客データにつながっているからです。
富士通は、開発環境そのものをAIの役割としました。Microsoft Dev Boxでプロジェクト専用のクラウド開発環境を迅速に準備したうえで、GitHub Copilotを日常の開発作業に導入しています 。
役割分担の設計は、データ接続の設計とセットです。
AIの出力は人間が確認・調整する
各工程の仕事をAIに任せると、人の仕事がなくなるように思えるかもしれませんが、実際には人の役割が明確に残っています。
富士通のGitHub Copilotが担うのは、開発者の指示のもとでの反復的なタスクです 。テストの実施やその結果の検証、編集案の提示やエラーのヘルプなどの支援を行います。しかし指示を出し、AIが出してきた案を判断するのは開発者自身です。
EFSGでは、顧客サービスマネージャーがチャットボットのフローに関するフィードバックを確認し、必要な調整を行えるようになっています 。現場の担当者も、システム内で数回のクリック操作でFAQの回答や挨拶メッセージを更新できます。担当者が常に情報を最新に保つことができます。
マルチエージェント ブレストAIは、議論の過程や根拠を可視化し、それを見た人間とAIが対話を行い、人間からのフィードバックを通して、学習や改善をする機能を特徴として持っています 。AI同士の議論をそのまま結論にするのではなく、その中身を人が確認ができる仕様になっています。
以下は設計に含めておきたい人の役割例です。
- AIに何を指示するかを決める
- 出てきた案や結果を確認し、採用の可否を判断する
- 出力や過程が想定のものではないときに、設定などを調整する
- 判断根拠が見える状態を保つ
工程単位で効果を測定し全工程の目標を設定する
役割分担の効果は、「なんとなく全体的に良くなった」とは確認しません。工程単位で測定します。
日立製作所は、要件定義で最大240倍、設計〜テストで約200倍という工程別の生産性向上を社内で確認しました 。そのうえで、2027年度には全工程で30%向上を目指すとしています。全工程の目標値を先に設定し、それを踏まえて各工程の目標を設定しています。
富士通は、Microsoft Dev BoxとGitHub Copilotの活用で作業負荷を20%削減し、2025年には375,000時間の節約を見込んでいます 。EFSGは、チャットボットによる即時回答、会話要約、案件記録の更新の支援を通じて、顧客対応の迅速化と顧客満足度向上につなげました 。
創出時間の活用方法と利用者の習熟を設計に含める
AIに任せた分、時間が創出されることがあります。その使い道まで決めておくことで、結果が変わります。
博報堂は、効率化により創出された時間を、自社の強みである「クリエイティビティ」を発揮できる業務にあてることで、品質向上を実現するとしています 。富士通も、開発者の才能を創造的な問題解決に集中させることを狙いとし、ハードウェア設定に費やしていた時間を削減しました 。空いた時間をどう使うかを、あらかじめ決めています。
もう一つが、利用者の習熟についてです。ABCash Technologiesとx3dが提供するAIZUS AIZUSで13種AIを業務へ定着する研修 は、「使い方は理解していても業務で活用できない」という課題を背景に作られたプログラムです。2カ月・全8回のワークショップで13種類以上の主要AIツールを横断的に扱い、プロンプト設計から業務への実装まで、さらにAIエージェントに業務を任せ方法まで学ぶ構成になっています。
EFSGのDynamics 365導入でも、パートナーのItopia Limitedが、システムアーキテクチャの設計やワークフローの開発に加え、顧客サービス担当者向けの包括的なトレーニングセッションを実施しました 。仕組みの導入とトレーニングが同時に組まれています。
- 空いた時間の活用方法を導入前に決める
- 利用者の習熟機会を導入計画に入れておく
- 学ぶ範囲に、ツールの操作だけでなく業務への組み込み方を含める
結論
ここまでの事例をまとめると、AIの役割分担の設計は、次の手順に整理できます。
- 対象業務を工程に分割し、AIを導入する工程を決める
- 役割ごとに求められる性能に合わせて、AIの機能やツールを選ぶ
- 各AIと参照する業務データと既存資産をつなぐデータ基盤を用意する
- 人が指示・確認・調整を担う範囲を明示する
- 工程単位で効果測定を行い、全工程の目標を確認する
- 創出された時間の使い道と、利用者の習熟も計画に含める
日立製作所は、工程の並びに沿ってAIエージェントを配置し、工程別の生産性向上を確認したうえで全工程の目標を掲げています 。博報堂の事例は、工程ごとの専門知識を役割としてAIに与えることで、手戻りの減少とプロセス全体の効率化という狙いを示しています 。EFSGの事例は、工程ごとに機能を割り当てたうえで、統合環境と顧客データへの接続、管理者による調整、担当者へのトレーニングまでを計画しています 。そしてGoogleは、役割ごとに性能特性の異なるモデルを用意しています 。
難しい発想ではなく、業務を工程に分け、どこにどのAIを導入するかを決めていくことが大切です。