生成AIに渡すデータの範囲を公開・社内・本人で分ける方法
参照したAIgram
目次
概要
生成AIを業務で使うときに「どこまでのデータを渡していいのだろう」と迷われる方は多いと思います。事例を見ると、渡すデータの性質ごとに、置き場所と渡し方が分かれています。
公開情報だけで作られた「投資のパートナーGPT」は、ChatGPTsとしてURLから誰でも使える形で公開されました 投資のパートナーGPTでIFA業務を支援。組織内データを使うThird AIは、生成AIアプリケーションを顧客のクラウド環境にシングルテナントでインストールします JTPのThird AI、GPT-5.6群対応で専門業務を支援。豊田自動織機の塗装工程分析では、Sight Machineのソフトウェアが同社のAzureテナント内で稼働し、データが外部に出ない構成をとりました 豊田自動織機、Azureで塗装不具合25%削減。本人に関わる情報を扱うQueue-it・大日本印刷・Meecoの実証実験では、利用者がMeecoのウォレットで管理されるデジタル認証情報で本人確認を行い、AIエージェントに代理実行の権限を付与しました Queue-itのAI代理購入と公平アクセスPoC。
範囲を決めることは、使える機能を減らすことと同じではありません。範囲を分けた各事例では、品質不具合の約25%削減や開発者の作業負荷20%削減といった結果が報告されています。
渡すデータを公開情報・社内情報・本人情報に分け、それぞれで置き場所と渡し方を決める。これが事例に共通する進め方です。
公開情報だけで作るAIは配布先を選ばない
株式会社クラウドファンディングの「投資のパートナーGPT」は、IFA・証券マン向けにChatGPTをカスタマイズしたもので、ChatGPTsとしてURLから誰でも利用できる形で公開されました 。
インプットしているのは、一般公開されているマーケット情報と、公開できるIFA・証券マン向けの情報です。個人情報や機密情報はインプットしていないと明示されています。
そのうえで、役割も限定されています。投資戦略、市場分析、コンプライアンスといったトピックの知識や洞察を提供する一方、個別のアドバイスや予測は行いません。
- インプットを公開情報に限定する
- 個人情報と機密情報は入れないと明示する
- 提供する役割を知識提供に絞る
渡すデータが公開情報だけであれば、配布先を制限する必要がありません。
社内情報を使うなら置き場所を先に決める
組織内のデータを参照させる場合、事例では置き場所の設計が先に来ています。
JTP株式会社のThird AIは、生成AIアプリケーションを顧客のクラウド環境にシングルテナントでインストールすることで、高いセキュリティを担保しています 。あらかじめ連携した組織内データをもとに、利用者の検索意図に沿った回答を生成します。
豊田自動織機の事例では、Sight Machineのソフトウェアが同社のAzureテナント内で稼働しており、データが外部に出ない構成になっています
。
置き場所の要件は、生成AI以前から開発現場にありました。富士通は、開発対象システムに求められるセキュリティ要件とコンプライアンス要件を満たすため、従来は開発者やプロジェクトごとに物理的なデバイスを設定していました 富士通、Dev BoxとGitHub Copilotで開発負荷20%削減。クライアントや国ごとに異なる基準を考慮する必要があり、プロジェクトの複雑さが増していたとされています。
社内情報を使うと決めた時点で、そのデータがどの環境の中に留まるのかを先に決めることになります。
社内情報は閲覧してよい範囲で決まる
社内情報といっても、全社で共有するものと、限られた担当者だけが見るものがあります。事例では、誰が見てよいかの設計が、そのまま生成AIに渡す範囲の設計になっています。
豊田自動織機のプロジェクトは、製造部門・生産技術・その他の関連チームが同じデータを参照する共通の可視性に重点を置きました 。部門をまたいで同じデータを見られる状態を先に作ったことで、同じ情報をもとに要因を話し合えるようになったと報告されています。
デジタル庁は、政府共通基盤「ガバメントソリューションサービス(GSS)」でゼロトラストネットワーク環境を実現し、各府省庁へMicrosoft Copilotを含むDXツールを提供しています デジタル庁のMicrosoft Copilot活用と業務効率化。GSSは約1,500拠点、約46,400ユーザーへの導入を完了しています。
- 部門をまたいで参照させるデータを決める
- 誰がアクセスできるかを基盤側で管理する
- その範囲の中で生成AIに参照させる
社内情報の範囲は、生成AIの設定ではなく、その前にある閲覧権限の設計で決まります。
参照先が増えるほど振り分けの仕組みが必要
扱うデータを分けると、参照先が複数になります。Third AIは、この振り分けを製品側の機能として持っています 。
- 複数のRAGシステムをAIが自動判別して回答を生成するAIエージェント機能を備える
- 利用者が「インターネット検索」や「データ分析」といった機能を選択し、独自AIアプリを作成できる
- GPT-5.6 Sol、Terra、Lunaに対応し、業務要件に応じてモデルを選べる
いずれも直感的なWeb UIで操作できるとされています。参照先とモデルの選択肢が増えたとき、利用者がその都度判断するのではなく、自動判別と選択機能で振り分ける形になっています。
参照先を分けたら、どの参照先を使うかを決める仕組みも合わせて用意することになります。
本人情報は本人の認可を通して渡す
公開情報でも社内情報でもない、利用者本人に関わる情報については、Queue-it、大日本印刷、Meecoの実証実験が一つの形を示しています
。
人気商品の販売イベントを想定したシナリオで、利用者はAIエージェントに商品検索を依頼し、提示された候補から購入する商品を選びます。その後、Meecoのウォレットで管理されるデジタル認証情報を用いて本人確認を行い、AIエージェントに代理実行の権限を付与します。
認証・認可されたAIエージェントは、利用者の代理として仮想待合室に参加し、人間の利用者と同じルールに従って順番を待ち、購入手続きから配送確認までを実行しました。
3社は、「人間かボットか」という単純な区分ではなく、信頼できる正規のアクセスと悪意のある自動化アクセスを適切に区別できる仕組みが必要になると考えています。
本人に関わる情報は、本人が認可した範囲でAIに渡す。その認可を確認できる形で残すことが前提になります。
範囲を決めた上で成果は出ている
範囲を限定すると効果も小さくなるように思えるかもしれませんが、事例では範囲を決めた上で結果が報告されています。
豊田自動織機は、Azure IoT Hubで統合した塗装工程データをAzure上でAIと機械学習により分析し、約400変数から品質不具合に相関の高い要因を絞り込みました 。パイロット運用期間中に、ブツ関連の品質不具合を約25%削減し、分析サイクルを5日から4時間未満へ短縮しています。
富士通は、Microsoft Dev Boxでプロジェクト専用のクラウド開発環境を整備し、GitHub Copilotを導入しました 。これらの活用で開発者の作業負荷を20%削減し、2025年には375,000時間の節約を見込むとしています。
デジタル庁の導入先からは、Microsoft Copilotの活用で業務効率が飛躍的に進んだとの声が寄せられています 。
データの置き場所を限定した構成のまま、これらの結果が報告されています。
結論
事例をまとめると、渡すデータの性質ごとに、置き場所と渡し方が分かれています。
- 公開情報だけを使う「投資のパートナーGPT」は、ChatGPTsとして公開配布されている
- 組織内データを使うThird AIは、顧客のクラウド環境へシングルテナントで設置される
- 豊田自動織機の分析は、自社のAzureテナント内で完結し、データが外部に出ない
- 本人に関わる情報の利用は、本人の認可を経てAIエージェントに権限を渡す
「投資のパートナーGPT」は、個人情報や機密情報をインプットしないことを明示し、その上で公開情報に基づく知識提供という役割に絞りました 。何を入れないかを決めることが、何ができるかを決めることと一体になっています。
そして範囲を分けた各事例で、品質不具合の約25%削減、開発者の作業負荷20%削減といった結果が報告されています。
難しい判断ではなく、扱うデータを公開情報・社内情報・本人情報に分け、それぞれの置き場所と渡し方を決めることが出発点になります。