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AI学習データの選別基準とばらつき対策、実環境検証の進め方

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目次
  1. 概要
  2. 集めた学習データは選別してから使う
  3. 生のデータは品質がばらついている
  4. 達成状態との差を基準にデータを採点する
  5. 高評価のデータだけでは実機の誤差に弱い
  6. 集める対象は目的から先に絞る
  7. 対象の仕組みを表すデータを学習させる
  8. 選別の良し悪しは実環境の成功率で確かめる
  9. 検証と改善のサイクルを繰り返して詰める
  10. 結論

概要

AIに何かを学習させるとき、「データは多いほどよい」と考えたくなります。ただ、実際の事例を見ると、先に決まっているのは量ではなく、どのデータを使うかという基準です。

ソフトバンク、産業技術総合研究所、三菱電機の合同チームは、数万時間に及ぶロボット動作データをそのまま使わず、AIで質を評価して学習に有効なデータを選別しました。そして実環境での作業成功率を競うロボット基盤モデル開発コンペティションで優勝しています ソフトバンクのデータ選別によるロボット基盤モデル優勝。提供されたデータは整理されていない生のデータで、量が膨大なうえ品質にもばらつきがありました。そこでタスクを達成したときの画像と、ロボットのカメラが認識している状態の違いをAIに比較させ、どれだけ直線的で無駄がない動きだったのかをスコアリングしています。

さらに、100点の動きだけで学習させると実機のわずかなずれに対応できないため、あえて少し質の悪いデータを混ぜるバランス調整も行っています。シミュレーション上の結果が良くても実機でうまく動くとは限らず、1〜2週間かけた学習が実機では失敗に終わることもありました。

集める段階から目的を絞る動きもあります。STATION Ai Data Foundryは、単にデータを集めるのではなく、投資対効果が期待できるタスクを選定してデータ収集と実証を集中的に行う拠点です STATION Ai Data Foundryの製造業AI実証。学習させる中身の選び方では、Nōka.AIの生物学的推論AIが魚類の遺伝子や血液などの情報を学習し、生物学的メカニズムを理解したうえで推論を行っています 京王×Nōka.AI生物学的推論AIで養殖最適化

学習データは、集めた全部を使うものではありません。評価基準を決めて選別し、実環境での成功率で確かめる。この流れが結果を左右します。

集めた学習データは選別してから使う

まず押さえておきたいのが、集めたデータをそのまま学習に流し込むのが当たり前ではない、という点です。

コンペティションで成果につながったポイントとして挙げられているのは、膨大なロボット動作データをそのまま使うのではなく、モデルの学習に有効なデータを見極めたことでした 。ロボット動作データの場合、必ずしもすべてのデータが性能向上につながるわけではないと説明されています。

そして担当者は、今回の成果の意義について、ロボット基盤モデルの性能向上においてデータの質や選び方が非常に重要であることを示せた点にあると述べています。モデルの構造を工夫することも重要ですが、実世界で動くAIでは、何を学習させるかが結果に大きく影響します。

学習データは、量を増やす前に選び方を決める。この順序が、実環境での成功率につながっています。

生のデータは品質がばらついている

なぜ選別が必要になるのか。その理由は、手元に集まるデータの状態にあります。

コンペティションで提供されたデータは、整理されていない生のデータでした 。全てを学習させようとするとそれだけで1カ月以上かかるほどの量があり、品質にもばらつきがありました。量が多いことと、使える状態であることは別の話です。

同じ問題は、製造業の現場でも起きています。STATION Aiの発表では、現場ごとのばらつきや扱う部品の多様性に対応できず、組み立てやピッキングなどの自動化は極めて困難だったと説明されています 。加えて、フィジカルAIの開発に必要な環境データは企業ごとに分散して管理されているため、業界全体で十分に蓄積・共有されていない点も課題として挙げられています。

つまり、データが手に入る環境になっても、次のような状態が残ります。

  • 整理されていない生の形式のまま蓄積されている
  • 記録された作業の質にばらつきがある
  • 現場ごと・部品ごとに条件が異なる
  • 企業をまたいで共有されていない

達成状態との差を基準にデータを採点する

ばらつきがあると分かったら、次は「どれが質の高いデータなのか」を判定する基準が必要になります。感覚で選ぶわけにはいきません。

合同チームは、この判定をAIに任せました。タスクを達成したときの画像と、ロボットのカメラが認識している状態の違いをAIに比較させ、どれだけ直線的で無駄がない動きだったのかをスコアリングし、スコアが高いものを質の高いデータと判断しています

ソフトバンクのデータ選別によるロボット基盤モデル優勝AI活用事例の構造図入力選別調整学習競技背景数万時間の動作データ制約実機の物理的な誤差AI処理動作データの採点人の役割学習データの選別・配合AI処理モデル学習・検証成果コンペティション優勝https://www.softbank.jp/sbnews/entry/20260707_01
ソフトバンクのデータ選別によるロボット基盤モデル優勝

ここで基準になっているのは、達成した状態と現在の状態の差です。「良さそう」という印象ではなく、ゴールに向かって無駄なく進んでいるかどうかという、計算できる形に落とし込まれています。

既存のデータを基準に判定する考え方は、業務システムでも使われています。バクラクのAIは、過去の仕訳との一貫性を考慮して最適な仕訳を自動で推薦します バクラクAIによる請求書処理工数90%削減。何をもって正しいとするかの参照先が、あらかじめ決まっている点は共通しています。

質の評価は、達成状態との差など、計算できる基準に置き換えると判定できます。

高評価のデータだけでは実機の誤差に弱い

スコアが付くと、上位だけを使いたくなります。ただ、事例が示しているのはその逆でした。

100点の動きだけを選んで学習させると、ロボットが誤差でわずかにずれただけで、AIが対応できずに失敗してしまうと説明されています 。そこで実機の誤差をカバーし、多少のブレを許容できるように、あえて「少し質が悪いデータ」を混ぜ合わせるバランス調整を行いました。

現実の機械には誤差があります。同じ事例では、「1センチ動かして」と指示しても9ミリしか動かないような物理的な誤差が発生することがあると語られています。理想的な動きだけを学んだモデルは、この1ミリのずれに出会った時点で行き先を見失います。

選別は上位だけを残す作業ではありません。実環境のブレを想定した配合まで含めて、学習データの設計になります。

集める対象は目的から先に絞る

ここまでは集まったデータの扱い方ですが、そもそも何を集めるかを先に決める進め方もあります。

STATION Ai Data Foundryは、単にデータを集めるのではなく、投資対効果が期待できるタスクを選定し、そのデータ収集と実証を集中的に行う点を特徴としています 。タスク選定や課題整理は株式会社ブーステックと連携し、生産性向上や省人化に直結する実課題ベースのユースケース設計を進めるとしています。

対象を絞る形は、京王電鉄とNōka.AIの奥多摩やまめ養殖最適化プロジェクトにも見られます。このプロジェクトは、「何を食べさせるか(飼料)」「どんな環境で育てるか(養殖環境)」「いつ収穫するか(品質予測)」という養殖の3つの課題に対象を定めて取り組みます 。

  • 効果が見込める対象タスクを先に選ぶ
  • 生産性向上や省人化など、実際の課題からユースケースを設計する
  • 取り組む課題の数を限定する
  • 選んだ対象に絞ってデータ収集と実証を行う

対象の仕組みを表すデータを学習させる

対象が決まったら、その対象で何が起きているのかを表すデータを学習させることになります。

Nōka.AIの生物学的推論AIは、魚類の遺伝子や血液などの膨大な情報を学習しており、ゲノムスケール代謝モデルなどの各種データを統合して解析します 。このプロジェクトでは、魚の代謝データを解析して成長に有効な栄養素を特定し、経験則に頼らない飼料設計を検証するとしています。魚の体の中で何が起きているかを表すデータを学習させることで、「なぜ魚は成長するのか」に答えられる形を目指しています。

ロボットの場合も同じ構造です。ロボット動作データには、映像、関節の動き、対象物の位置、作業の成否といった情報が含まれており、ソフトバンクはこうしたデータをAIモデルが学習できる形に処理しました 。結果だけでなく、その結果に至る過程の情報が含まれている点が共通しています。

選別の良し悪しは実環境の成功率で確かめる

選別と学習が終わっても、それが良かったかどうかは、まだ分かりません。確かめる場所が必要になります。

コンペティションで求められたのは、シミュレーション上の精度ではなく、実環境での作業成功率などでした 。開発の手順としては、まずシミュレーションでロボットの動作を検証し、問題なく動けば実空間でロボットを動かしています。シミュレーションは通過点であって、判断の場は実機でした。

実環境で確かめる体制づくりは、STATION Ai Data Foundryでも進められています。同センターでは、入居するトロン株式会社と連携し、作業者のマルチモーダルデータの収集・加工やロボットデータとの連携、AIモデルの検証を推進するとしています 。

データの選び方が正しかったかは、実環境での成功率で確かめます。シミュレーションの結果だけでは判断できません。

検証と改善のサイクルを繰り返して詰める

一度の検証で答えが出ることは、ほとんどありません。事例で語られているのは、繰り返しの回数です。

合同チームは、限られた期間の中でデータ処理、学習、評価、改善のサイクルを何度も回す必要があり、どの変更が性能向上につながったのかを一つ一つ確認したと述べています 。その結果を見て次に何を変えるかを試行錯誤する必要があり、技術的にも時間的にも難しい取り組みだったと振り返っています。

繰り返す前提は、進め方の設計にも表れます。奥多摩やまめのプロジェクトは2026年7月から9月まで実施予定で、データ統合・AIモデル学習・最適化提案・検証・知見移転の5つのフェーズで段階的に推進されます 。検証が工程として組み込まれています。

小さく試す形は、業務ツールでも用意されています。バクラクは、契約前のトライアルで実際の請求書を取り込んで使い勝手を検証できるとしています 。自分たちのデータで確かめてから決める、という点は同じです。

  • 変更点を一つずつ切り分けて評価する
  • 検証を工程として計画に組み込む
  • 自社の実データで試す
  • 結果を見て次に変える内容を決める

結論

事例から読み取れる、学習データの選別の進め方をまとめます。

  • 集めたデータをそのまま使わず、質を評価して学習に有効なデータを選別する
  • 達成状態との差など、計算できる基準でデータを採点する
  • 高評価データだけでなく少し質が悪いデータも混ぜ、実機の誤差やブレを許容できるようにする
  • 効果が見込める対象を先に絞り、そこにデータ収集と実証を集中させる
  • 選別の良し悪しは、シミュレーションではなく実環境の成功率で確かめる

ソフトバンク、産総研、三菱電機の合同チームは、データの質を評価して学習に有効なデータを選別することで、より現実世界で高い作業成功率を出せる高品質なモデルの構築を目指しました 。実世界で動くAIでは、どのようなデータを学習させるかが結果に大きく影響するとされ、データキュレーションによる選別と、実作業の成功率での評価が行われています。

集める段階から選別を組み込む取り組みも始まっています。STATION Aiは、投資対効果が期待できるタスクを選定してデータ収集と実証を集中的に行う拠点を設立し、2026年12月の稼働開始を目指しています 。

難しい発想は必要ありません。何のためのデータかを決め、質を測る基準を作り、実際の現場で確かめる。この積み重ねが、使えるAIにつながります。