会話をそのまま記録や評価に変える──「会話→構造化→確認」で自動化を実務に載せる
参照したAIgram
目次
なぜ「会話→構造化→確認」なのか
診察のやりとり、面接での受け答え、会議での発言。仕事の多くは「会話」でできています。その会話を、あとで使える記録や評価に変える作業は、これまで人が手で書き起こし、整理してきました。ここにAIを入れる動きが広がっています。
いくつかの事例を見ると、共通した形が見えてきます。
- 医療分野では、FIXER FIXER、診察会話をAIで診療記録化する仕組みを開発・検証 が診察会話をAI音声プラットフォームでテキスト化し、Sovereign GaiXerでSOAP形式などの診療記録ドラフトを生成する仕組みを開発・検証しています。
- 採用分野では、SHaiN SHaiNで求人メディアのAI面接を24時間化 が応募者との面接、評価、面接評価レポートの作成までを自動で行います。
- 自治体では、神戸市のKOBE AI PORT 神戸市KOBE AI PORTの庁内AI活用 が、会議の文字起こしデータから議事録形式の文書を生成する「議事録作成」アプリケーションを備えています。
分野はばらばらですが、やっていることは似ています。会話をテキストにし、決まった形(診療記録・評価レポート・議事録)に構造化する。そして、その結果を人が確認して使う。この「会話→構造化→確認」という流れが、共通の骨組みになっています。
会話や非定型の入力を、そのまま構造に変える難しさ
なぜ「確認」がわざわざセットで語られるのでしょうか。それは、決まった形のない入力を、決まった形に変えるのが難しいからです。
不動産の書類を例にした事例が、この難しさをよく説明しています。TASUKI TECH LAND TASUKI TECH LANDの生成AI-OCRで登録工数削減 の説明によると、OCR(印刷された文字を読み取る技術)は、定められた枠の位置関係や、決まった項目名が記載されていることを前提に設定するため、統一フォーマットでなければ読み取りが難しい性質があります。同じ「住所」でも、「住居表示」「所在地」「地番」などさまざまな言葉が使われるためです。
トランスコスモスと東京建物不動産販売の事例 トランスコスモスのAI-OCR物件登録自動化 でも、物件情報登録書類は多様なフォーマットがあり、手書きの書類もある中で、所定の書式に変換するのに多くの手間がかかっていたと説明されています。
会話も同じです。人の話し言葉には決まった枠がありません。それを診療記録や議事録という「型」に落とすとき、抜けや取り違えが起こりえます。だからこそ、型に変えたあとで確認する仕組みが要るのです。
FIXER──診察会話を診療記録ドラフト化し、医師が確認・修正する
FIXER は、イレブンラボの音声AIとSovereign GaiXerを組み合わせ、診察会話のテキスト化と診療記録ドラフトの生成を行う仕組みを開発・検証しています。
ここで大切なのは、AIが作るのは「ドラフト(下書き)」だという点です。医師がそのドラフトを確認・修正する運用を前提にしています。AIが記録の下書きを用意し、最終的な内容は医師が責任を持って仕上げる、という役割分担です。
また、国内の閉域環境で処理しながら、文書作成の負荷を軽くし、医療データ活用を高度化することを目指しています。医療情報という慎重な扱いが必要なデータを、外に出さずに処理する点も設計に含まれています。
SHaiN──面接から評価レポートまでを自動化し、企業がレポートで採否を判断する
SHaiN は、ヒアリングから評価までの工程を完全自動化し、面接評価レポートの即時納品を実現するAI面接サービスです。求人メディアと連携した事例では、次のように使われます。
- 応募者は、スマートフォンやタブレットを使い、非対面・非接触で24時間365日、AIと対話しながら面接を行えます。
- 求人企業は、出来上がった面接評価レポートを基に採否を判断し、面接日程の調整負担を減らすことを目指します。
- 面接評価レポートは、採用管理システム「sonar ATS」と連携し、候補者データを一元管理できます。
ここでも、AIは面接して評価レポートを作るところまでを担い、採否そのものは企業が判断します。会話(面接)を構造化(評価レポート)し、その結果を人が判断に使う、という流れです。
KOBE AI PORT──文字起こしから議事録を生成し、情報検索チャットは回答に参照資料を明示する
神戸市のKOBE AI PORT は、会議の文字起こしデータから議事録形式の文書を生成する「議事録作成」アプリケーションを整備しました。会話を議事録という型に変える、まさに「会話→構造化」の例です。
この基盤には、確認をやりやすくする工夫もあります。情報検索チャットは、条例・規則や市会議事録など神戸市独自のデータを取り込み、該当箇所などを検索できます。そして、生成AIの回答には根拠となる参照資料が明示されます。これにより、回答内容の信頼性を担保しつつ、職員が安心して業務に活用できるとしています。
「どこを根拠にその答えを出したか」が示されていれば、使う人は元の資料に当たって確かめられます。確認を人任せの気合いに頼らず、確かめやすい形で仕組みに組み込んだ例と言えます。
南陽市──議事録作成のプロンプトを公開し、実行と確認は利用者が担う
南陽市 南陽市の生成AIプロンプト841例公開 は、実際の業務で使う生成AIのプロンプトを841例、市民に公開しました。この中には、会議の音声データから会議録を作る、議事録のまとめを作る、といった「会話→構造化」に関わるものも含まれています。
この事例で特徴的なのは、役割の分け方です。WEBフォームからは直接、生成AIのプロンプトを実行できません。利用者がフォームで作ったプロンプトを、自身の生成AIに貼り付けて実行します。
そして、生成された回答の正確性・妥当性は、利用者自身の責任でファクトチェックを行うよう明記しています。市はプロンプトという「型」を提供し、実行と確認は利用者が担う。ここでも確認は、使う人の側にはっきり位置づけられています。
不動産OCR──非定型書類を構造化し、抽出結果をシステムへ反映する
会話ではありませんが、非定型の入力を構造に変える点で参考になるのが不動産OCRの事例です。
TASUKI TECH LANDの生成AI-OCR読取 は、OCRで読み取った文字情報から必要情報の抽出を生成AIに指示し、フォーマットに関係なく抽出・反映します。従来のOCRが苦手だった「決まった型がない書類」を、生成AIと組み合わせて扱えるようにした形です。
トランスコスモスと東京建物不動産販売の事例 でも、AI-OCRによるテキスト化と、生成AIによる必要情報の抽出・要約を組み合わせ、入力作業の大半を自動化するスキームを構築しています。
読み取ってそのまま終わりではなく、抽出した結果をシステムへ反映する。バラバラの入力を、使える形に整えて所定の場所に収める、という点は、議事録や評価レポートの自動化とも通じています。
確認の設計が、自動化を実務に載せる
ここまでの事例を並べると、うまく実務に載せている取り組みは、どれも「確認」をあいまいにしていないことがわかります。
- FIXER は、AIが作るのはドラフトで、医師が確認・修正する運用を前提にしています。
- KOBE AI PORT の情報検索チャットは、回答に参照資料を明示することで信頼性を担保しています。
- 南陽市 は、出力の正確性を保証せず、ファクトチェックを利用者の責任としています。
確認のやり方はそれぞれ違います。専門家が直す、根拠を見せる、使う人が確かめる。ですが「AIの出力をそのまま正解にしない」という点では共通しています。会話を構造に変える仕組みは、この確認と組み合わさって、はじめて実務で使える形になります。
会話を構造に変える仕組みは、確認と組み合わさって効果を目指す
自動化のねらいは、単に手間を減らすことだけではありません。
SHaiN は、評価のばらつきの改善や合否基準の統一を掲げ、企業はそのレポートを採否判断に使います。会話を同じ型の評価に変えることで、判断の土台をそろえようとしているわけです。
FIXER は、文書作成の負荷を軽くし、医療データ活用を高度化することを目指す、開発・検証の段階にあります。まだ確定した効果ではなく、これから確かめていく取り組みです。
こうして見ると、「会話→構造化→確認」は特別な発想ではありません。話したことを、使える形に整え、人が確かめて役立てる。その当たり前の流れを、AIで手早くできるようにしたものです。自分の職場で議事録や記録づくりに困っているなら、まずは「どこを構造化し、どこを人が確認するか」を分けて考えるところから、近い使い方が見つかるはずです。